2009年10月10日土曜日

mainichi shasetsu 20091009

社説:ウィニー無罪判決 守る側のソフト開発も

 ファイル交換ソフトの「Winny(ウィニー)」をめぐり著作権法違反のほう助罪に問われた元東大助手に対し大阪高裁は、無罪の判決を言い渡した。「犯罪に利用される可能性を認識しているだけではほう助と評価することはできない」というのが逆転無罪の理由だ。

 1審の京都地裁は、「利用者の多くが著作権を侵害することを明確に認識、認容しながら公開を継続した」として有罪と判断した。しかし、ウィニーについては、「応用可能で有意義な技術」と指摘していた。

 控訴審判決でも、ウィニーについて「通信の秘密を保持しつつ多様な情報交換を可能にするとともに、著作権の侵害にも使える価値中立なソフト」と認 定し、元助手に対しては「被告は著作権侵害をする者が出る可能性を認識し、認容していたが、それ以上に違法行為を勧めたとはいえない」と結論付けた。

 京都府警が5年前に元助手を逮捕した際、逮捕の是非が大きな論議となった。複写機で本や雑誌など著作物をコピーした場合、複写機のメーカーが、著 作権侵害を手助けしたとして罪に問われることがあるのだろうか。殺人犯が使った刃物をつくった人が殺人ほう助になるのか、といったような疑問が示された。

 また、ファイル交換ソフトは他にも数多く存在し、ウィニーの開発者を摘発したとしても、著作権侵害をめぐる状況の改善にはつながらないといった点 や、ファイル交換の仕組みを使った新しいビジネスの可能性が追求されている中で、あいまいな基準での逮捕は日本の開発者の意欲を萎縮(いしゅく)させるこ とにつながりかねないといった指摘もあった。

 逮捕後の捜査当局の対応にも疑問が残る。元助手にウィニーの改良を禁じ欠陥を修正できなくしたことから、自衛隊や裁判所、刑務所、病院といった公的機関の情報が大量に漏れ出し、回収不能になってしまった。その中には警察の捜査情報も含まれていた。

 そうした観点からすると、無罪という大阪高裁の判決は、妥当な判断と言えるだろう。

 著作権の保護は重要だ。ただし、著作権をめぐる状況はインターネットの普及によって大きく変化した。技術が先に進み、法制度が想定していない世界が誕生した時に捜査当局はどう対応すべきかも、この裁判で問われていることだろう。

 元助手の行為については最高裁の判断を求めることになるのかもしれないが、司法の判断とは別に、著作者の権利を保護するための新しい仕組みをどうつくっていくのかといった点にも、ソフトの開発者には力を注いでもらいたい。

毎日新聞 2009年10月9日 0時14分




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