2009年10月21日水曜日

asahi shohyo 書評

道路整備事業の大罪—道路は地方を救えない [著]服部圭郎

[掲載]2009年10月18日

  • [評者]広井良典(千葉大学教授・公共政策)

■道路をつくると地方は衰える

  アメリカには計3年暮らしたが、街が完全に自動車中心にできていて、その「豊かさ」のイメージとは正反対に中心部は荒廃し実に味気なかった。ヨーロッパの 街は概して全く対照的で、歩いて楽しめるエリアが多く、ゆったりとした落ち着きと地域固有の魅力に満ちていた。そうした相違を生む背景の一つに「道路整 備」のあり方がある。

 時あたかも民主党の政権運営が始まり、同党は高速道路の無料化やガソリン税の暫定税率廃止といった政策を掲げる一方、公共事業の根本的な見直しに着手している。本書が扱うのは、まさにそうした道路を中心とする公共事業のありようと今後の日本社会の方向である。

 これまで道路整備は、田中角栄の「日本列島改造論」に象徴されるように、それが地方を豊かにし活性化するとの理由で行われてき た。著者が疑義を呈するのはまずこの点であり、「ストロー効果」(道路などで結ばれた2地域において都市規模や経済規模が大きいほうが小さいほうを吸収す る効果)といった視点を援用しながら、道路整備がかえって地域の人口流出や地域経済の衰退を招きうることを様々な事例やデータを挙げて論じていく。

 その上で「アメリカのコミュニティーを破壊した主犯はテレビでもなければ麻薬でもなく、自動車である」との指摘(アメリカの女 性都市研究家ジェイコブズの言葉)にも言及しつつ、「コミュニティーの空間的分断と崩壊」「子どもの遊び空間の喪失」「商店の喪失などの生活環境の悪化」 など、道路整備がもたらす負の側面を多様な角度から分析していく。そして世界で進みつつある「脱自動車・脱道路」の潮流を紹介しながら、今後の都市や地域 のあり方を提言する。

 あえて欲をいえば、道路整備のあり方の見直しの先に展望される、より積極的なコミュニティー空間づくりや地域再生に向けた方策 についてさらに議論を展開してほしいとも思うが、いずれにしても道路とこれからの都市・地域を考えていくにあたってきわめて示唆に富む、タイムリーな本で ある。

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 はっとり・けいろう 63年生まれ。明治学院大学准教授。共著に『脱ファスト風土宣言』。

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