2009年10月25日日曜日

mainichi shasetsu 20091025

社説:中越地震5年 来るべき時に備えよう

 脱線した上越新幹線の映像にくぎ付けになったことを思い出す。最大震度7の激震で68人が亡くなった新潟県中越地震から23日で5年がたった。中 山間地を襲った大規模地震は、さまざまな課題を私たちに突きつけたが、いまだ教訓が十分に生かされているとは言えないのが現状だ。

 道路が崩壊して脱出できないうえに、防災行政無線なども停電で使えない。旧山古志村(現長岡市)は、地震2日後に全村民約2100人がヘリコプ ターで避難するまで孤立状態に置かれた。国土の7割を中山間地が占める日本では、災害時に孤立の恐れがある集落が全国に点在する。毎日新聞が各都道府県を 通じて今年3月末時点で調べたところ、全国に1万9136集落あった。

 孤立集落で人的被害を拡大させないための対策はどうか。食料、飲料水の備蓄は各6%と4%しかない。避難施設は7割弱の集落にあるが、耐震性の十 分なものはうち2割弱だけ。5割以上が非常時の無線通信手段を確保していない。心もとない結果である。内閣府が05年に実施した調査と比べても進展はな い。自治体は、備蓄などできるところから早急に手をつけるべきだ。

 「家中の柱がみしみしと音を立てて裂けていった」。上映中の記録映画「1000年の山古志」の中の村民の証言である。地震に伴う家屋倒壊の恐ろし さに身のすくむ思いがする。中越地震では3000棟以上の家屋が倒壊した。阪神大震災では、死者の約8割が建築物の倒壊が原因だった。いつ発生してもおか しくない東海地震や、今世紀前半の発生が懸念される東南海・南海地震ではともに6000人台、やはり発生が予想される首都直下地震でも4200人が建築物 の倒壊で死亡するとの被害想定が出ている。

 それにもかかわらず、総務省がこのほど公表した調査では、耐震基準が強化される81年より前に建てられた住宅約1100万戸のうち、耐震診断をし たのは5.5%、補強工事までしたのは3.9%にとどまる。地震対策では「公助」「共助」「自助」のバランスが大切だと言われるが、生命や財産を自ら守る 「自助」の意識を高めたい。

 阪神大震災をきっかけにできた被災者生活再建支援法は、住宅に大規模半壊以上の被害を受けた被災者に最大300万円を支援する。中越地震をきっか けに07年、使途の制限をなくしたり、手続きを簡素化する法改正が行われた。だが、被災者からは、建物だけでなく生活への支援ができるよう法改正してほし いとの声が出ている。この点についても不公平感を生まない運用を前提に、見直しに向けて議論を進めるべきだろう。

毎日新聞 2009年10月25日 0時26分

 


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