2009年10月24日土曜日

mainichi shasetsu 20091024

社説:雇用創出10万人 介護を希望の仕事に

 政府は生活緊急支援と雇用創造を柱とする緊急雇用対策を決定した。従業員の休業補償を政府が肩代わりする雇用調整助成金の対象は今年1月ごろから 急増し、8月現在で255万人に上る。勤務先の業績が下げ止まれば1年で支給は打ち切られるため、政府は年末以降に大量の失業者が出ることに危機感を持 ち、緊急対策を迫られていたのだ。

 生活対策としては、雇用や住居、生活支援の相談をハローワークで一括してできる「ワンストップサービス」、失業者や困窮者のために公営住宅の確保 と活用などが盛り込まれた。雇用調整助成金の継続をはじめこうした生活対策を講じなければ、また「年越し派遣村」のような光景が繰り返されるだろう。しか し、長期的に見ると労働力を必要とされる職域に移動させなければ、潜在的失業者の解消にはつながらない。

 その点、介護、グリーン(農林水産、環境・エネルギー、観光)、地域社会の3分野で人材育成研修を強化し、来年3月末までに約10万人の雇用下支 え・創出効果を発揮することが対策に盛り込まれたのは期待したい。特に介護現場は慢性的な人手不足に陥っており、関西の高齢者介護施設の中には東北地方ま で出向いて職員を確保しているケースもある。75歳以上の人口は急激に増え、2030年には2266万人と05年の2倍になる。集中的に雇用を創出してい かなければ介護難民があふれるのを止められないだろう。

 完全失業者が361万人もいるのにどうして介護現場は人手不足なのか。給料の安さや資格制度の壁がよく理由に挙げられるが、若者にとって介護の仕 事で得られる報酬は生活できないほど安くはなく、資格がなくても介護施設で働いている人は大勢いる。問題は、結婚して子どもができてからも一家の生活を支 えられる見通しが立たない給与体系や、資格取得で得られる専門性と報酬や社会的評価が連動していないところにある。

 それでも家族介護の経験がある主婦や、企業を退職したシニアが働ける時間を選んで介護の仕事に入る姿は珍しくなくなった。会社を辞めて介護の NPOを設立する人、80歳を過ぎて一念発起しケアマネジャーの資格を取得して働いている人もいる。現役世代の男1人が家族の生活費全部を稼ぐという従来 の家族モデルにこだわらなければ、今でも介護はライフスタイルや価値観に合わせて柔軟に働ける職場なのだ。

 緊急雇用対策の中には、介護、福祉、医療分野で年内に5万人分の職業訓練確保というものもある。時代が求める産業構造の変化を雇用対策の面からも大胆に進めるべきだ。

毎日新聞 2009年10月24日 0時19分



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