2009年10月16日金曜日

mainichi shasetsu 20091015

社説:新聞週間 「今」が見える窓として

 親の国民健康保険料の滞納が原因で、子供が医者にかかれない。昨年、小学校の養護教諭を取材し、その事実を知った毎日新聞大阪社会部の平野光芳記者は「子供は親を選べない。社会で守るのが当然だ」と、キャンぺーンに取り組む決意をした。

 お役所は、保険給付を差し止められた親の子供が何人いるのかすらつかんでいない。大阪府内の実態を皮切りに独自に調べ始めた。ついには厚生労働省 が重い腰を上げ、全国約3万3000人の「無保険の子」の存在が明らかになった。政治も動き昨年12月、中学生以下の子供に一律に保険証が交付される国民 健康保険法の改正が実現する。不況と貧困という今日的課題に直結する一連の報道は、09年度の新聞協会賞に選ばれた。見過ごされがちな社会問題に光を当 て、不合理な現実を変えるのは新聞の大きな役割の一つだ。

 政治報道はどうか。今夏の衆院選で民主党が大勝し、戦後初めて2大政党間の政権交代が実現した。郵政民営化を掲げた小泉政権下の4年前の衆院選 で、「刺客報道」が強い批判を浴びた。今回の衆院選では、マニフェスト(政権公約)による政策論争の冷静な報道に、特に新聞は力を入れた。もちろん、不十 分な点はあるだろうが、活字メディアの原点を見据えた報道だったのではないか。記者会見のオープン化など、新政権下でメディアを取り巻く環境は変化しつつ ある。国民の「知る権利」に応えることを第一に、変革の時代の「目」であり続けたい。

 無実の人が17年半も獄中にとらえられていた。栃木県足利市で90年、4歳の女児が殺害された足利事件の菅家利和さんである。DNA鑑定が覆り、 再審裁判で無罪が言い渡される見込みだ。発生当初、捜査当局への取材を基にDNA鑑定を過信し、菅家さんが犯人であることを前提とする報道もあった。5月 の裁判員制度実施を前に、各報道機関は、容疑者・被告を犯人と決めつけないよう記事のスタイルを見直した。事件を教訓に、事件報道の改革にも引き続き取り 組みたい。

 「新聞は 地球の今が 見える窓」。15日から始まる新聞週間の代表標語だ。作者の藤村女子高校(東京)3年、本田しおんさん(18)は「新聞が 家にあるだけで安心につながる。新聞には正確性があり、一番頼りになる存在です」と話す。しかし、情報を受けるだけでは、多様な世界の現実は見えてこな い。「この記事を読みたいというモチベーション(動機付け)が大切。(標語には)自ら窓を開けるという意味を込めました」と本田さんは言う。グローバル化 する社会の中で、「今」を見つめる若い読者の期待にも応え続けたい。

毎日新聞 2009年10月15日 0時08分




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