2011年4月28日木曜日

asahi shohyo 書評

本を生み出す力―学術出版の組織アイデンティティ [著]佐藤郁哉・芳賀学・山田真茂留

[評者]辻篤子(本社論説委員)

[掲載]2011年4月24日

表紙画像著者:佐藤郁哉・芳賀学・山田真茂留  出版社:新曜社 価格:¥ 5,040


■「知の門衛」学術界にも課題

 出版不況は、知の守り手である学術書の出版にも影響を及ぼさずにはいない。

 本書は、東京大学出版会や有斐閣など専門書を出版する4社を例に「知の門衛」としての役割を詳細に分析し、欧米との比較も通して、「学術コミュニケーションの危機」に切り込んでいる。

 ファストフードならぬファスト新書、近年急増する教養系新書にも注目する。出版社は売れ行きが伸び悩む分、刊行点数を増やさざるを得ない。「硬い本」が出やすくなった半面、若手研究者をスポイルする懸念も指摘される。

 そんな新書ブームを支えるのは、欧米とは比較にならないほど厚みのある中間読者層だという。

 一方で、日本の学術界は、日頃から若手に書き方を指導し、仲間の仕事を評価し、知の門衛たらんとする意識が薄いとする。

 本書の分析は、日本独特の文化状況をも浮かび上がらせる。学術のありようにも示唆を与える労作である。

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本を生みだす力

著者:佐藤郁哉・芳賀学・山田真茂留

出版社:新曜社   価格:¥ 5,040

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asahi shohyo 書評

「コミュニケーション能力がない」と悩むまえに [著]貴戸理恵

[掲載]2011年4月24日

表紙画像著者:貴戸 理恵  出版社:岩波書店 価格:¥ 525


 就職活動などで、数値化できない「コミュニケーション能力」や「社会 性」が重視されるようになっている。そんな世の中に、生きづらさを感じる人もいるのではないか。著者は自身の不登校経験を踏まえ、コミュニケーション能力 や社会性を個人的な能力とせずに、その人が置かれた社会的な関係の中でとらえるべきではないか、という。そして「関係をつくり変えて参加(可能なものに) する」ことを提案する。人間関係が苦手な人も、配慮をすれば仕事はできるからだ。

 そうした配慮をするだけのコストをいとわない社会がいかに可能か、が次の問題なのだろう

表紙画像

「コミュニケーション能力がない」と悩むまえに――生きづらさを考える (岩波ブックレット)

著者:貴戸 理恵

出版社:岩波書店   価格:¥ 525

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asahi shohyo 書評

書店員に聞く ロイヤルウエディング

図説 イギリスの王室 [著]石井美樹子

[掲載]2011年4月23日朝刊be

表紙画像著者:石井 美樹子  出版社:河出書房新社 価格:¥ 1,890


 英国王室のウィリアム王子とケイト・ミドルトンさんの婚礼が近づいている。「庶民の王室入り」に祝福の声がしきり。だが、やんごとなきお方の結婚は、古今東西、政略結婚が常である。悲喜こもごもの結婚の歴史を垣間見る。

■有隣堂たまプラーザテラス店・高樋純子さんに聞く

〈1〉図説 イギリスの王室 [著]石井美樹子

〈2〉和宮様御留 [著]有吉佐和子

〈3〉愛新覚羅浩の生涯 [著]渡辺みどり

 ▽記者のお薦め

〈4〉名画で読み解く ハプスブルク家12の物語 [著]中野京子

 「僕ら2人が、これから生涯を共に過ごすことを、母にも知ってほしい」とウィリアム王子が言えば、中流家庭出身のケイトさんは、「尊敬できる女性。会いたかった」。

 「母」「女性」とは故ダイアナ元妃のことだ。国民的人気を博したダイアナ元妃の長男、ウィリアム王子の結婚は、スキャンダル続きの英王室には人気回復の切り札といえる。

 ロイヤルウエディングといえば、やはり、ダイアナ元妃とチャールズ皇太子の結婚式を思い出す。1981年、テレビで世界に放映された2人のパーティーは華やかだった。今回も、そのとき以上に明るい話題を求める人々を魅了するのだろう。

 (1)『図説 イギリスの王室』。華やかさとスキャンダルとは裏腹だが、英国王室でも、歴史上のロイヤルウエディングは多くが 政略結婚だったことが示される。「王室が実質的な権力を握っていた近代以前は、血を血で洗うような物語が多くあったのです。写真と図版が多く、歴史を俯瞰 (ふかん)できる一冊です」と高樋さん。

 (2)『和宮様御留(かずのみやさまおとめ)』。幕末に天皇家から徳川将軍家へ嫁いだ「悲劇の皇女」和宮のドラマは多くの小説に描かれているが、物語作家として名高い著者のこの小説は、和宮が実は替え玉だった、という設定だ。

 「主人公の少女に寄り添って読み進めるうちに、史実であるかどうかよりも、歴史の大きなうねりに翻弄(ほんろう)される人の愚かさや小ささを普遍的ととらえる著者の精密なまなざしに感銘を受けました」と高樋さん。

 (3)『愛新覚羅浩(あいしんかくらひろ)の生涯』。「昭和の貴婦人」の副題が付くノンフィクション。日中戦争前夜、満州国皇 帝・愛新覚羅溥儀(ふぎ)の弟、溥傑(ふけつ)に旧華族の日本人女性、浩が嫁いだ。絵に描いたような政略結婚、別離と再会。数奇な生涯を丹念に追う。

 日本の敗戦に伴い夫と別れ、引き揚げた東京で暮らしていたが、娘を心中事件で失った。戦犯となった夫と中国で再会したのは61 年。その後里帰りも果たしたが、87年、夫にみとられ死去した。「過酷な人生であったことに変わりはないのですが、そこに自分の意志が感じられるのがせめ てもの救いです」(高樋さん)

 記者のお薦めは、(4)『名画で読み解く ハプスブルク家12の物語』。スイスの一豪族が時宜を得て、神聖ローマ帝国の皇帝の地位を得たハプスブルク家は、約650年の長きにわたり、王朝を維持した。

 ヨーロッパのほぼ全域を支配するため、戦争と結婚と政略の限りを尽くす。血と愛と涙の帝国の悲喜劇はオペラなどの芸術を生ん だ。筆者はデューラー、ベラスケス、グレコといった画家たちの12枚の絵画を切り口に大長編「ハプスブルク家」の歴史をひもとく。(春山陽一)    ◇

〈見るなら〉クィーン

 英国王ジョージ6世の吃音(きつおん)矯正をテーマにした映画「英国王のスピーチ」に、エリザベス2世は幼いおしゃまな王女として登場する。

 早世した父の後を継いで女王となってから45年後、彼女は予期せぬ王室の危機に立ち向かわざるを得なくなった。元皇太子妃ダイアナが1997年に事故死したとき、伝統を重んじるあまり、冷淡な態度をあらわにしたことが国民の不評を招いたのだ。

 葬儀までの1週間の女王と当時の首相ブレアのせめぎあいを描いた2006年の映画「クィーン」も、女王の「スピーチ」が焦点に なっている。ブレアの助言に従い、バッキンガム宮殿に半旗を掲げるとともに哀悼の演説をするのかどうか。女王の苦悩は単にスキャンダルまみれの嫁への憎悪 から発しているのではなく、国家に生涯を捧げてきたかたくなな忠誠心との葛藤にあるのだった。(龍)=DVD発売元はエイベックス・エンタテインメント、 3990円

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図説 イギリスの王室 (ふくろうの本)

著者:石井 美樹子

出版社:河出書房新社   価格:¥ 1,890

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和宮様御留 (講談社文庫 あ 2-1)

著者:有吉 佐和子

出版社:講談社   価格:¥ 660

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愛新覚羅浩の生涯―昭和の貴婦人 (中公文庫)

著者:渡辺 みどり

出版社:中央公論新社   価格:¥ 840

クィーン

発売元:エイベックス・マーケティング

価格:¥ 3,990

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