2009年10月12日月曜日

mainichi shasetsu 20091012

社説:広島・長崎五輪 被爆地に聖火は来るか

 広島市の秋葉忠利市長と長崎市の田上富久市長は11日、両市が共同して2020年夏季五輪の招致に名乗りを上げることを明らかにした。

 今後、両市が中心になって招致検討委員会を設置し、周辺の自治体などにも参加を呼びかけ、前例のない複数都市による共同開催の可能性を探るとしている。

 世界で2都市しかない被爆地の広島、長崎の両市と、「平和の祭典」としての五輪の組み合わせは、決してミスマッチではない。近代五輪はフランスの教育学者、クーベルタン男爵により、スポーツを通じた教育・平和運動として創設された。

 秋葉、田上両市長が正副会長をつとめる「平和市長会議」は20年までの核兵器廃絶を訴える「ヒロシマ・ナガサキ議定書」を発表している。目標年の 20年に広島・長崎で五輪を開催し、スポーツを通じて平和の尊さを世界中に発信し、核廃絶の願いを世界に訴えるというのが五輪招致の出発点であるのだろ う。

 その意味では「なぜ2度目の東京なのか」について国際オリンピック委員会(IOC)委員から十分な理解を得られなかった東京の16年五輪招致よりも説得力を持つ。

 2日のIOC総会で東京招致が失敗し、直後に「核なき世界」を訴えたオバマ米大統領のノーベル平和賞が決まった。まさに絶妙なタイミングでの招致の名乗りだった。

 ただ、広島・長崎両市の五輪招致はあまりにも多くの課題を抱えてのスタートとなる。

 五輪憲章は1都市での開催を規定しており、広島・長崎に加え、複数都市での共同開催をIOCが承認するかどうか。

 世界的な知名度は高くても広島市の人口は117万人、長崎市は45万人ほどの地方都市だ。広島は94年に五輪のアジア版ともいえるアジア大会を開催しているが、五輪とは規模が違い、分散開催の困難も伴う。

 とりわけ数千億円単位の開催経費をどうまかなうか。簡単に解決できる問題ではない。今回落選した東京は招致活動費だけで150億円をつぎこんだ。当然、国の全面的な財政支援が必要になろう。税金の投入にあたっては地元の理解だけでなく、国民の支持が欠かせない。

 「平和」「核廃絶」の理念だけでIOC委員の支持を得ようという考えは甘い。20年五輪を目指すライバルも少なくない。アジアのライバル都市に加え、五大陸でまだ五輪が開かれていないアフリカ大陸からも名乗りを上げる可能性がある。

 今はまだ「夢を語る」段階に過ぎない。五輪運動の将来を見据え、世界が納得する理念と、密度の濃い開催計画を練らなくてはならない。

毎日新聞 2009年10月12日 0時10分

 



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