社説:鳩山首相の所信表明…「友愛政治」実現の道筋を
◇公約の優先順位示せ
政権交代の実はあるのか。それは一体何なのか。与野党が国民の前で堂々と論戦する場にしてほしい。
鳩山政権発足後初の臨時国会が開かれ、鳩山由紀夫首相の所信表明が行われた。この国会は三つの意味で注目したい。
第一に、政権交代後、首相の初の国会演説であることだ。国民に支持された民主党の政権公約を今後どう実現していくのか、最高責任者である首相が国 会という公式の場で改めて整理してほしい。第二に、野党に転落した自民党がどういう政策論争を挑むのか。第三に、「脱官僚」を軸とした国会改革を、その試 行錯誤も含めて見守りたい。
◇「平成維新」の気概良し
首相の初の演説は、なかなか力がこもっていた。まずは、今回の政権交代の意義を明治維新と比べ、「無血の平成維新」「官僚依存から国民への大政奉 還」「戦後行政の大掃除」などのキーワードを並べた。特に、持論である「友愛政治」については、「弱者の居場所と出番のある社会」「官だけではなく地域が 担う新しい公共」をうたいあげた。
若干言葉が踊っている感はあるにせよ、その気概や良し、である。ただ、要は、政治の実現力だ。その観点からいくつか注文をつけたい。
政権公約の中心である資源の再配分については、現在年末に向けての予算編成が始まっている。95兆円に積み上がった概算要求をどう削っていくの か。公約の中で約束した「埋蔵金」などの財源をどう捻出(ねんしゅつ)するのか。わかりやすく情報を開示し、今後の指針を示してほしい。特に首相が重視す る友愛政治実現のためには、それなりの財源の裏付けや経済戦略が必要だが、その道筋が示されていないことも指摘しておきたい。
その過程で重要なのは、子ども手当の創設や高校の実質無償化、農家の戸別所得補償制度、高速道路の無料化など選挙の目玉公約について、その優先順 位や実施工程について改めて整理を行い、公約通りいきそうもない問題が生じた時には率直に事情を説明し理解を求めることである。国民の代表で構成する国会 ゆえに、政権の方針を国民的に確認する場としての機能を果たすだろう。
外交・安保についても同様だ。演説では、「世界のかけ橋」「開かれた海洋国家」という言葉で国際社会における日本の位置を定義した。かけ橋として は、温室効果ガスの25%削減、核のない世界への不退転の決意を新たにし、海洋国家としては、アジア太平洋地域を友好と連帯の実りの海にしたい、と述べ た。
いずれも、理念としては同調できるが、その基盤となるべき「緊密かつ対等な日米同盟」の道筋が見えてこない。特に、普天間移設問題で表面化した関 係閣僚の発言のずれは沖縄県民や関係者をいたずらに混乱させている。首相が「最後は私が決めます」と大見えを切るのであればこの国会で統一見解を出すべき だ。首相の過去の言動には、「常時駐留なき安保」「在日米軍基地の段階的な縮小」といった日米同盟関係の根本的な見直しを含むものもある。見直し議論の土 俵をどこに置くかについても明らかにしてほしい。
◇献金問題の説明尽くせ
いわゆる「故人献金」問題でもさらに突っ込んだ説明が必要だ。特に、虚偽記載が立件される場合は、秘書の不始末の責任を政治家がどう取るかについ て、これまで野党時代に「責任の一体性」を追及してきたことも踏まえ、首相本人の説得力のある釈明が求められる。税制上の不備を指摘する声にもていねいに 答弁してほしい。国民の信頼感なくしてはせっかくの大がかりの政策変更も絵に描いた餅となる。
さて、野党に転じた自民党である。各委員会にベテラン議員を配して論戦を挑むが、ぜひとも、半世紀の政権運営のキャリアを持つ前政権政党としての 風格を見せてもらいたい。野党としては、首相の献金問題や政権のスキャンダル追及は当然せざるを得ないだろうが、新しい旗を立て政策本位で与党を追い込ん でほしい。野党にとっては、国会が数少ない自己実現の場である。その出来不出来が谷垣禎一執行部の今後の再生に影響すると見るべきだ。
政権交代を受けて、国会の与野党攻防や論戦が、どう変化していくかも焦点となる。民主党からは政府・与党の一元化を徹底する立場から、官僚の国会答弁を禁止する法案の今国会提出や議員立法の自粛といった国会改革論が提起されている。
しかし、あくまで国会での自由な論戦が担保されることが、大原則だ。官僚答弁も、内閣法制局長官らを含めての禁止が妥当かの議論がある。政治主導 の実現とは、つまるところ国権の最高機関で、国の唯一の立法機関である国会の復権である。委員会審議活性化も含め新たなルール作りに与野党で取り組んでほ しい。
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