社説:郵政社長人事 「脱官僚」と矛盾しないか
いったい、この人事はどう受け止めればいいのだろう。驚きとともに、鳩山政権への不審の念がわく。
政府は、民営化の見直し作業を進める日本郵政の後任社長に、元大蔵事務次官の斎藤次郎・東京金融取引所社長をあてることを内定した。
斎藤氏は93年から95年まで大蔵次官を務めた。細川連立内閣時代、新生党代表幹事だった小沢一郎氏と連携した「国民福祉税構想」に失敗するが、 官僚の枠を超えた実行力を印象付けた。剛腕ぶりや小沢氏との関係が、政権復帰した自民党にうとまれて前倒しで次官を辞めた。退官後も再就職できず、00年 にようやく格落ちとも言える東京金融取引所のトップに就いている。
今回の人事への疑問は、まず斎藤氏の力量と手腕がよくわからない点である。亀井静香郵政担当相は「将来の郵政事業について話し合ってきた延長線上でお願いした。統率力があり、新しい事業を作り上げるのに適任」と説明した。
東京金融取引所は、金融機関を相手に金利先物商品、金融派生商品などの清算を担っている。社長としての実績には、05年7月の外国為替証拠金取引 (FX)の公設市場創設があるが、トラブル続発を受けた政府が規制を設ける一環として働きかけたのが実情で、斎藤氏の手腕とは言いにくい。本業の金利先物 取引は低迷したままだ。この間、郵政問題について公の場で目立った発言はない。自民党に煙たがられた政治的センスや剛腕は10年以上前の話で、健在かどう かは不明である。
二つ目は、民主党の基本方針、理念との食い違いだ。野党時代から言い続けてきた「官僚の天下り拒否」、総選挙で掲げた「脱官僚依存」との落差をどう説明するのか。
民主党が日銀人事で元大蔵次官の武藤敏郎氏や元財務官の渡辺博史氏の総裁、副総裁案などを拒否したのは昨春のことだ。国際金融畑の渡辺氏の場合、容認する姿勢を見せながら、土壇場で「財務省からの天下りを規制する」と反対に転じた。
今回、亀井担当相は「大蔵省にいたのは10年以上も前」と言う。平野博文官房長官は日銀人事との違いを聞かれ「一緒に比較するのは少し違うんじゃないかな」と語るだけで、明快に説明できなかった。
人事案を承諾した鳩山由紀夫首相は、脱官僚の基本方針との整合性について「本当に能力のある方ならば認めるべきではないかとの結論に達した」と話した。
いずれの話も、これまでの対応との落差についての疑問を解消するものではないし、斎藤氏の能力をどうやって判断したのか、納得のいく説明とは到底言い難い。
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