「ムダ撲滅」「生活重視」の二兎(にと)を追うべきである。国の予算や事業を洗い出す政府の行政刷新会議が本格始動した。
概算要求が95兆円にふくれた来年度予算案の絞り込みなど、税金の無駄遣いにメスを入れる同会議に課せられた責任は極めて重大だ。同時に、国民生活に必要な支出は確保する原則はあくまで維持しなければならない。目指すべきは予算の質の向上である。
鳩山由紀夫首相を議長、仙谷由人行政刷新担当相を副議長とする刷新会議は「脱官僚依存」を掲げる内閣の看板組織だ。だが、仙谷氏が当初構想した少 人数構成ではなく6閣僚も含めた11人がメンバーとなり、スピード感のある運営は難しくなった。スタッフなど体制整備がおぼつかないまま、さきの補正予算 の執行停止では「成果」を迫られた。出遅れは否定できない。
年末に向けた来年度予算編成でどこまで実績を上げられるかで真価が問われる。鍵を握るのが、各省の事業を一つずつ精査する「事業仕分け」手法の導入だ。
刷新会議の事務局長に起用された加藤秀樹氏が代表を務める民間シンクタンクはこの手法を通じ、多くの自治体で支出削減に威力を発揮してきた。仕分 け業務には国会議員のほか、民間スタッフのチームを編成し240程度の事業を洗い出すという。住民に身近な地方の事業と事情は異なり時間的制約もあろう が、国民の前に徹底公開し、わかりやすく必要性を吟味することが望ましい。
とりわけ、これまで放置されてきた特別会計や、公益法人への国の支出を俎上(そじょう)に載せることは賛成だ。公益法人への官僚の天下りと、国からの放漫な支出は表裏一体だ。仙谷氏は公務員制度改革も所管するだけに、並行して改革を進めてほしい。
一方で、小泉改革でみられたような歳出削減至上主義に陥らないよう、留意する必要もある。来年度予算編成にあたり大幅な税収減が見込まれる中、民 主党がマニフェストに掲げた生活支援策も見直しを求める声が勢いづいている。だが、単なるコストカットの道具として、刷新会議を利用することは禁物だ。
中央官庁の痛みを伴うムダ削減に切り込む一方で、生活重視の両立に汗を流してこそ、国民は予算の質の変化を実感できる。国から地方への事業仕分けも単なる自治体への仕事の押しつけでなく、分権効果が期待できるかの視点が大切だ。
刷新会議事務局の主体である官僚が幅を利かせるようでは、こうした視点は生まれまい。仕分け作業では専門家や自治体首長らの「目利き」も大いに活用すべきである。
毎日新聞 2009年10月23日 0時07分
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