教員の質向上のため大学院修士課程修了を教員免許の取得条件にし、養成課程を6年にする。民主党政権が進める方針に波紋が広がっている。総選挙マ ニフェストで方向は明らかにしていた政策の一つだが、細かな設計は未定だ。現場の意見聴取や論議に時間をかけ、関連法案を11年にも通す腹づもりという。 詰めるべき条件や問題点は多い。
教育現場からこんな疑問、懸念の声が上がる。
延長は教職志望の意欲をそぎ、また学生の経済負担も増して、優秀な学生をむしろ減らすことにならないか。今でも多くの地方で教員採用試験は難関 で、6年勉強して教職になれなかった場合を考えると学生は不安だ。これまでの学部の教育内容を改善・充実させるのが先決で、単なる延長では解決策にならな い。
また、「教師力」は本来現場の豊富な経験で鍛えられるもので、座学より早く教室に立つべきだという考え方もある。
このため6年制案では、現行2〜4週間の教育実習を1年程度に拡充する。さらに大学1年生の時から実習を可能にして、小学校の入学児童を卒業学年まで見守るようなケースも理想として考えるという。
また自民党政権が導入したばかりの免許更新制度に代わって、10年程度を経た教員に大学院などでの研修を課して専門免許状を出す構想だ。
これに伴い「受け皿」として教職大学院の大幅増設、指導教官の質・量、そして財源の確保が必要となる。カリキュラムも全面的に組み直されなければならない。
その大前提に、こうした大きな改革によって新政権はどんな教育成果や人材育成を目指すのかを語るべきだ。本来そこが最も肝心なのだ。
政権交代の結果、既存制度に大なたが振るわれ、官僚色を極力排した「政治主導」の新政策が推進されるのは当然だろう。文部科学省でも今週開かれた教育現場の実情を聞く会で政務三役が官僚抜きで会を進行し、様変わりを印象づけた。
その席でも指摘されたが、教育現場の実情と文科省の認識、情報には従来ずれがある。例えば、いじめ自殺問題や教員採用の不明朗さなどでは対応の遅れにそれが端的に表れた。その教訓を生かし、常に現場の実情に照らした政策判断ができるような体質転換を望みたい。
教員養成6年制問題はその試金石でもある。オープンな論議を積極的に展開してほしい。それで何を目指すのか。これまで中央発信の教育政策はいわば通達行政で、理念や目的は何かというところまで論議を高めていく経験も発想も乏しかった。
絶好の機会と考えたい。
毎日新聞 2009年10月17日 0時05分
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