2009年10月16日金曜日

mainichi shasetsu 20091015

社説:視点 モラトリアム騒動 亀井氏の術中にはまった

 中小企業向け融資や住宅ローンの返済を3年程度猶予できるようにするという亀井静香金融・郵政担当相の発言をきっかけに、モラトリアムという言葉が駆けめぐるようになった。

 近代に入り日本がモラトリアムを実施したのは、関東大震災と昭和金融恐慌の2回のみだ。それも期間や対象が限定されていた。そのモラトリアムを3年間という長期にわたり、中小企業向け融資と住宅ローンという広範な分野で実施するという。

 亀井氏の過激な発言に振り回される形で展開してきた今回のモラトリアム騒動だが、結局のところ、常識的な線での着地となりそうだ。

 少数政党の党首として亀井氏はその存在をアピールすることに成功したことになる。一方、メディア側からしてみると、亀井氏のPR作戦にすっかり利用された形となった。

 そのためもたぶんあるのだろう。骨格が示された貸し渋り・貸しはがし対策についてのメディア側の論評は総じて厳しい。

 民間契約への国家の直接介入が避けられたのは幸いとしつつも、返済猶予先への政府保証の適用について、とめどなく税金で面倒をみなければならない制度になりかねないという懸念が示されている。

 しかし、不況期に中小零細企業が資金繰りで困らないように配慮するのは、雇用対策という意味合いも含め、政府が果たすべき当然の役割だろう。

 金融機関がどれだけ返済猶予に応じたかを国会に報告しなければならない点も問題視されているが、これについても逆の見方がある。

 信用金庫や信用組合は法律で非営利の金融機関と位置づけられている。そうした中小零細企業を対象にした相互扶助的な金融機関に対しても、厳密な資産査定を求めてきたこれまでの金融庁の姿勢の方が問題、という指摘だ。

 バブル崩壊を経て金融再生をめざす過程で金融庁は、金融機関に厳密な資産査定を要求した。この過程で、金融機関と融資先企業の関係はドライなものとなってしまった。

 野放図な不良債権の拡大は防がなくてはならないが、バブルに踊った業者と、営々と事業を続けてきた事業者への対応は違ってしかるべきだ。

 今のような不況下で、金融機関が融資先の状況をていねいにみて弾力的に対応できるようにするのは必要なことだ。

 それを封じるのではなく、後押しする方向に金融行政が転換するのは、歓迎すべきことではないだろうか。(論説委員・児玉平生)

毎日新聞 2009年10月15日 0時06分





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