社説:JR西前社長辞任 組織のうみを出し切れ
JR福知山線事故の原因調査内容漏えい問題で、山崎正夫前社長と土屋隆一郎副社長が取締役を引責辞任した。国民の信頼を失墜させた責任は重大で、 当然のことだ。だが、とかげのしっぽ切りに終わらせてはならない。JR西日本は組織の問題点を徹底検証し、うみを出し切る覚悟が必要である。
山崎前社長は国土交通省航空・鉄道事故調査委員会(現・運輸安全委員会)委員の旧国鉄OBに接触して調査報告書案を入手した。また、土屋副社長は社内の事故対策審議室メンバーに指示して、事故調委員から議論内容などを探らせていた。
JR西日本の第三者機関・コンプライアンス特別委員会は、この間の複数の行為を「報告書の内容に影響を与えるような働きかけ」と認定した。現場は 96年に急カーブに改造されたが、山崎前社長が事故調委員にATS(自動列車停止装置)の優先設置が必要との表現を修正するよう求めたことや、旧国鉄OB らに公述人として意見を発表するよう頼み、選任から漏れた後に謝礼として現金を渡した−−などの事実だ。
さらに、JR函館線で起きた類似の脱線事故で「ATSがあれば事故は防げた」とする資料が事故調や捜査機関に提出されていなかった点についても、JR側の作為の疑いがある、と厳しく指弾した。
こういった行為は、旧国鉄の「一家意識」に便乗した組織ぐるみの裏工作といっていい。しかも、ATS設置と事故の因果関係をあいまいにする、悪質な責任逃れである。
いくら企業風土や社員意識改革を掲げても「もう何も信用できない」という被害者や遺族の怒りは無理もない。不祥事の続発で、鉄道現場のモラル低下も心配になる。
この事故では、改造工事当時鉄道本部長だった山崎前社長が業務上過失致死傷罪で起訴された。しかし、神戸第1検察審査会は遺族らの申し立てにより、歴代社長3人がいずれも安全対策の最高責任者で、ATS設置の注意義務を怠っていたとして「起訴相当」と議決した。
改造工事時の経営判断が安全より収益、効率に偏っていたとする市民感覚を生かした判断である。JR西日本はこういった世論の批判を真摯(しんし)に受け止めなければならない。
一方、運輸安全委員会は第三者による検証チームを作り、JR西日本の働きかけで報告書の内容に影響がなかったかを調べ、場合によっては修正もする。
課題はまだある。中立性と透明性を高めるため、倫理や情報開示の規定を整備し、調査対象となる企業のOBに頼らずに済む人材育成システムを構築することも急務である。
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