マインド・ウォーズ 操作される脳 [著]ジョナサン・D・モレノ
[掲載]2008年11月30日
- [評者]香山リカ(精神科医、立教大学現代心理学部教授)
■軍事利用目的で進む驚愕の研究
「これは、SFではない」という帯のコピーがすべてを物語る、恐るべき科学読み物。
脳科学ブームが続いているが、実用はまだ先、と思っている人もいるのではないか。ところが、それは間違い。アメリカ国防総省の 研究機関であるDARPAの最先端脳研究を解説した本書は、すでに最新の脳科学研究で人の脳を電気的、化学的、物理的に操作することがほとんど実現可能、 という驚愕(きょうがく)の事実を明らかにしていく。それはたとえば、「脳の活動を完璧(かんぺき)にモニターする」「眠気を感じず寝ない、あるいは冬眠 し続ける」「脳に完全な記憶貯蔵システムを作って忘れない」「つらい記憶を消去する」「頭で考えるだけでマシンを動かす」といったことだ。
では、いったい何のためにこんな研究が行われているのか。研究機関名を見れば想像がつくように、それは軍事利用目的だ。恐怖も 眠気も感じない兵士が、本部から脳に直接、与えられる指示に操作され、自分の脳の能力を最大限に増強させて、敵の兵士の思考を読み取り、その脳を破壊。次 の世界戦争は、そんな悪夢のような様相を呈するのは間違いない。著者はこの研究は平和目的にも利用できるとやや楽観的だが、本当にそうなのか。エンタメと しても楽しめる科学読み物だが、倫理的な観点からも読まれるべきだ。
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久保田競監訳
- マインド・ウォーズ 操作される脳
著者:ジョナサン・D・モレノ
出版社:アスキー・メディアワークス 価格:¥ 2,604
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