2008年12月24日水曜日

asahi shohyo 書評

書評委員お薦め「今年の3点」 小杉泰

[掲載]2008年12月21日

  • [評者]小杉泰(京都大学教授・現代イスラーム世界論)

(1)イスラーム世界のことばと文化 [編著]佐藤次高・岡田恵美子

(2)映画でわかる世界と日本 [著]佐藤忠男

(3)世界遺産—ユネスコ事務局長は訴える [著]松浦晃一郎

 (1)は、言語と文化の面からイスラーム世界を紹介する好著。メディアのアラビア語の今風な発展も面白いが、漢字で表現される中国イスラームや、キリスト教支配下に戻ったスペインでの「隠れイスラーム教徒」の話も興味深い。

 (2)では、映画はそれぞれの国の人びとが見たい自分を映し出す「自惚(うぬぼ)れ鏡」だという著者の持論が説得的に語られ る。映画は世界をまるごと理解するにいいメディアであると説く著者も、アラブ映画は日本にまだ遠いと嘆く。最後にパレスチナ映画を題材に自爆テロを読み解 く。なぜ若者は自爆テロに走るのか、太平洋戦争末期に「一四歳で日本海軍の最年少の少年兵」だった著者の謎解きは絶妙である。

 (3)は、ユネスコの世界遺産の目的と仕組みがわかって、ためになる。多様で豊かな文化を次の世代に引き継ぐのは容易ではない。著者は次の課題として、滅びゆく少数言語の保護を訴えている。

表紙画像

映画でわかる世界と日本

著者:佐藤 忠男

出版社:キネマ旬報社   価格:¥ 2,100

表紙画像

世界遺産——ユネスコ事務局長は訴える

著者:松浦 晃一郎

出版社:講談社   価格:¥ 1,890

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