2008年12月24日水曜日

asahi shohyo 書評

無駄学 [著]西成活裕

[掲載]2008年12月21日

  • [評者]勝見明(ジャーナリスト)

■「限られた資源で幸せ」願う

 何かが無駄かどうか、一般人は瞬時に判断するが、「無駄とは何か」の定義だけに1章分が割かれる。科学者とはかくも理を詰めるのかと、まずはその思考法に引き込まれた。

 無駄とは、ある目的をある期間で達成しようとするとき、最適な(もしくは予想上の)インプットとアウトプットの差益より、実際の益を低くしてしまう要因と定義されるようだ。その発生原因や解消法を研究する新たな分野として、東大准教授の著者は「無駄学」を打ち立てた。

 きっかけは前著『渋滞学』だ。世の中のあらゆる流れに生じる渋滞を10年かけて追究した成果は脚光を浴びた。活動の枠が広がるなかで、著者はある工場で在庫の渋滞に目を奪われる。「渋滞=無駄」の図式が浮かび、探究心に火がついた。

 本書ではトヨタ生産方式に代表される生産現場での「ムダとり」に2章分があてられ、その応用として家庭や社会にはんらんする無駄を見つけ出し、取り除き方を検討する。

 ここで、地球規模の資源・食糧問題へスケールを広げ、無駄の根源は資本主義経済自体にあると斬(き)り込む。ただ日常の無駄に 悩むレベルの読者の意識を一気に社会思想レベルへ向ける展開はやや無理があるかも。「無理は無駄を生む」と自身もいう。限られた資源の中で誰もが幸せに生 きる社会をつくりたいとはやる思いは痛いほどわかる。続編、続々編と続く社会を巻き込む研究を応援したい。

表紙画像

無駄学 (新潮選書)

著者:西成 活裕

出版社:新潮社   価格:¥ 1,050

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