2008年12月17日水曜日

asahi shohyo 書評

ヒエログリフ解読史 [著]ジョン・レイ

[掲載]2008年12月14日

  • [評者]小杉泰(京都大学教授・現代イスラーム世界論)

■複雑な暗号めいた古代文字への情熱

 不思議な形をした文字はロマンを誘う。簡単に読めない古代の文字となれば、なおさら興味津々となる。

 ヒエログリフは古代エジプトの象形文字で、今でもエジプト各地の遺跡では、石に深く刻み込まれた太陽や鳥、動物の絵文字に接することができる。

 古代エジプト語およびその後継者となったコプト語は、かつて4700年にわたって使われていたが、その後1千年の断絶を経て、19世紀に解読されることになった。本書は、そのドラマとエジプト学の誕生を描いている。

 解読のきっかけとなったのは、ナポレオンが率いた遠征軍がナイル・デルタの要塞(ようさい)で発見した石碑の半片であった。ロ ゼッタストーンと通称されるこの石には、「神聖文字」であるヒエログリフと、それを崩した形のデモティク(民衆文字)とギリシャ文字が書かれていた。

 つまり、それは2種類の文字を用いたエジプト語およびギリシャ語という2カ国語による布告なのであった。古代文字の解明には、このような遺跡が大いに助けになる。

 とはいえ、ヒエログリフは単純な絵文字ではない。絵に見えても音だけを表す文字や単語の種類を示す読まない文字も含まれている ため、非常に複雑な暗号のようであった。その解読に成功したフランス人シャンポリオンは、並々ならぬ熱情を持つ天才であった。彼は漢字やコプト語も学ん で、解読に役立てた。

 もっとも先駆者として、イギリス人トーマス・ヤングの功績も重要であった。ロゼッタストーンはすぐにイギリス軍に奪われ、その 後も解読をめぐって英仏の争いや学者たちの競争が続いた。今日までも、シャンポリオンとヤングの評価をめぐって、英仏の論争があるという。その経緯も生き 生きと描かれていて、本書に精彩を添えている。

 現在、ロゼッタストーンは大英博物館にあって、展示物の中でもっとも人気が高い。ポストカードや複製のおみやげなども一番の売り上げという。古代文明をめぐる憧憬(しょうけい)と好奇心を満たしてくれる一冊である。

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 田口未和訳/John Ray ケンブリッジ大学エジプト学教授。英国学士院会員。

表紙画像

ヒエログリフ解読史

著者:ジョン・レイ

出版社:原書房   価格:¥ 2,520

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