2008年12月24日水曜日

asahi shohyo 書評

書評委員お薦め「今年の3点」 香山リカ

[掲載]2008年12月21日

  • [評者]香山リカ(精神科医、立教大学現代心理学部教授)

(1)アーミッシュの赦(ゆる)し—なぜ彼らはすぐに犯人とその家族を赦したのか [著]ドナルド・B・クレイビルほか [訳]青木玲

(2)死刑—人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う [著]森達也

(3)シズコさん [著]佐野洋子

 世界的に困難な時代を迎えても、まだ自分だけは生き残ろうと投資ゲームに躍起になる人がいる。北欧型社会に学べ、という本が売れてはいるが、身近にいる貧困者は見て見ぬふりをする。

 そんな「排除の時代」に、(1)と(2)はなお寛容であることの可能性や大切さを説こうとする。(1)は女生徒5人が死亡した 銃乱射事件の後、すぐに自殺した犯人を赦すことを決め、その家族を励まし続けたアメリカのコミュニティーの実話。(2)は、死刑囚や制度にかかわる人々を 訪ねる旅の中で、揺れ動く筆者の心を率直につづった迫力あるルポ。

 (3)は、何といっても今年一番の問題作。超高齢の母親との葛藤(かっとう)と赦しの道程を、これまた高齢の娘が思い出すがま まに語る。ともすれば陰惨な話になりそうなところを、あっけらかんとした語り口が救っている。母を赦すのがかくもむずかしいのに、いわんや他人をや、とや や気が滅入(めい)ることはたしかだが。

表紙画像

アーミッシュの赦し—なぜ彼らはすぐに犯人とその家族を赦したのか

著者:ドナルド・B. クレイビル・デヴィッド・L. ウィーバー‐ザーカー・スティーブン・M. ノルト

出版社:亜紀書房   価格:¥ 2,625

表紙画像

シズコさん

著者:佐野 洋子

出版社:新潮社   価格:¥ 1,470

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