2008年12月9日火曜日

asahi shohyo 書評

インドネシア 展開するイスラーム [著]小林寧子

[掲載]2008年12月7日

  • [評者]小杉泰(京都大学教授)

■外来宗教がどう受容されてきたか

 インドネシアと日本の歴史的なかかわりは深く、経済的にも結びつきが非常に強い。戦後、日系企業もたくさん進出してきた。インドネシアは国民の9割がイスラーム教徒で、絶対数も世界最大の信徒数を擁する国となっている。

 言いかえると、日本にとって最もなじみ深いイスラーム圏のはずであるが、なぜか、長らくこの国はイスラーム色が薄いと思われてきた。そのイメージが変わったのは、この10年ほどにすぎない。

 本書では、ずっと忘れられていたインドネシアのイスラームを、20年以上研究してきた貴重な成果がまとめられている。イスラー ムはもともとは外来の宗教であるが、次第に地元に受容され、土着の文化と適合して展開してきた。それを踏まえた現代社会の実態が、入念な調査で克明に解き 明かされている。

 多くの島から成るインドネシアでは、多様な文化に対応して多元的なイスラームが発展してきた。独自の法解釈や制度が作られてき た様子も、歴史的な現実として面白い。01年に、豚の酵素を製造過程で使ったことが問題とされて、「味の素事件」がおこったが、その時の法解釈論争も実に 正確に活写されている。

 これからインドネシアの理解を深めていくうえで、本書は礎の一つとして大いに貢献することであろう。

表紙画像

インドネシア 展開するイスラーム

著者:小林 寧子

出版社:名古屋大学出版会   価格:¥ 6,930

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