2008年12月24日水曜日

asahi shohyo 書評

書評委員お薦め「今年の3点」 耳塚寛明

[掲載]2008年12月21日

  • [評者]耳塚寛明(お茶の水女子大学教授・教育社会学)

(1)国立大学・法人化の行方 自立と格差のはざまで [著]天野郁夫

(2)公立学校の底力 [著]志水宏吉

(3)オオカミ少女はいなかった 心理学の神話をめぐる冒険 [著]鈴木光太郎

 子どもの貧困や青年の就労問題が容認しがたいところまで顕在化し、不平等社会日本の姿がいっそう露(あら)わになった。

 教育政策も市場化と競争原理へのシフトが進み、大学は翻弄(ほんろう)され続ける。(1)は国立大学法人化が大学間の隠れた格差構造を顕在化させたと警鐘を鳴らす。「選択と集中」政策の対象から外れた大学の役割を視野に入れた、新しい国家戦略の必要性を訴えている。

 初中等教育も強い改革要求にさらされている。大都市圏では公立学校の質は低いかのような印象が定着し、富を背景に、公立学校か らの脱出者が増える。(2)は12の「がんばっている」公立学校のリポートである。「偉大なる平等化装置」としての公立学校教育の再生に向けて、希望の光 が見えてくる。

 今年もっとも楽しませてくれたのが(3)。オオカミ少女など、よく知られた心理学上の常識のうそが次々に暴かれていく。目から鱗(うろこ)が落ちた。

表紙画像

公立学校の底力 (ちくま新書)

著者:志水 宏吉

出版社:筑摩書房   価格:¥ 819

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