書評委員お薦め「今年の3点」 尾関章
[掲載]2008年12月21日
- [評者]尾関章(本社論説副主幹)
(1)幸運な宇宙 [著]ポール・デイヴィス [訳]吉田三知世
(2)人間の境界はどこにあるのだろう? [著]フェリペ・フェルナンデス=アルメスト [訳]長谷川眞理子
(3)帰郷者 [著]ベルンハルト・シュリンク [訳]松永美穂
どん底気分の年の瀬だからこそ、書評済みの(1)を再び。この宇宙が生き物に都合よい地球を生んでくれたおかげで今の自分がい る。人は誰も幸運なのだ。その謎にとことん挑んだ本。裏を返せば生き物に不都合な宇宙なら、こんな謎解きで悩む自分はいなかった。悩める人は幸せなり、 か。
人とは何か、で悩むのが(2)。ゲノム解読は科学による人の定義をもたらしたが、ほかの動物との違いが紙一重であることもわかった。それを避けて「人間らしさを文化で定義」すれば排除と差別の論理に陥りかねない。悩みは深いのだ。
小説(3)も悩ましい。帰ってくる男と帰ってこられる女、その傍らにいる男。この構図の危うさと切なさを、ドイツ帰還兵の物語 と古代のオデュッセイア、主人公自らの今日的体験を重ね合わせることで描く。そこにナチス協力者の戦後や東独の人々の「壁」崩壊後も絡ませて……。年越し にふさわしい一冊。
- 人間の境界はどこにあるのだろう?
著者:フェリペ フェルナンデス=アルメスト
出版社:岩波書店 価格:¥ 2,100
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- 帰郷者 (新潮クレスト・ブックス)
著者:ベルンハルト シュリンク
出版社:新潮社 価格:¥ 2,310
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