ホラー小説 ホラーとファンタジーは今、文学的実験の敵地に
2008年12月11日
「パラサイト・イヴ」など人気作を次々に生み出す日本ホラー小説大賞(角川書店主催)で、今年の第15回長編賞には飴村行(あめむら・こう)さんの「粘膜 人間」が選ばれた。乱暴な弟の殺害をカッパに頼むという奇想で、薬物を使った拷問やむごたらしい殺し合いの場面が描かれている。中学生同士が殺し合う「バ トル・ロワイアル」が、作品の反社会性から同賞に落選して10年。ホラー小説は、その可能性を広げながら暴走を続けている。
「粘膜人間」は最終選考前の下読み委員の評価は最高点だった。が、最終選考で「悪夢のような拷問シーンが実に不愉快で、作者は かなり危険なところに近づいている気がする」(林真理子さん)とされ、大賞は真藤順丈さんの「庵堂(あんどう)三兄弟の聖職」に。ただ、映像的な表現と文 章力は林さんも高く評価する。
著者の飴村さんは39歳。ホラー好きで、多くのミステリー系文学賞があるなか、日本ホラー小説大賞にのみ挑み、今回が4度目の 応募だった。「『サンゲリア』などで知られるイタリアのルチオ・フルチ監督の映画や多くの漫画、小説にふれ、自分の中で融合して腐敗してこんな形になっ た。好きなエログロの世界を書き続けたい」と話す。
最終選考にかける作品を選ぶ委員の一人によると、最近の応募作は「近親相姦(そうかん)、人肉食、拷問……。大半に残虐な場面があり、それは作品の前提に過ぎなくなっている。タブーがなく、何でも表現してしまう」のだとか。
しかし、同賞の受賞者は他の文学賞より高い率で人気作家に育つ。先の委員は「インターネットに残虐な映像があふれている中で、それをことばで超えようとしている。何でもありだから文章力が鍛えられる面もある」と言う。
グロテスクな幻想で話題となった「姉飼(あねかい)」で、第10回の大賞を受けた遠藤徹さんは、今は文芸誌などにも作品を発表 する。「『粘膜人間』も『姉飼』も、怖いホラーではなく、どうしようもなくこっけいな小説。怖くはないが、これが賞を取れるとしたら日本ホラー小説大賞し かない」と言う。
「不気味さなら純文学とされる中原昌也さんの小説は不気味なホラーだし、過剰さなら芥川賞を受けた吉村萬壱さんの『クチュクチュバーン』もホラー的。ホラーとファンタジーは今、文学的実験が一番しやすいジャンルになっています」(加藤修)
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