2008年12月24日水曜日

asahi shohyo 書評

書評委員お薦め「今年の3点」 苅部直

[掲載]2008年12月21日

  • [評者]苅部直(東京大学教授・日本政治思想史)

(1)白山の水—鏡花をめぐる [著]川村二郎

(2)ホッブズ 市民論 [著]トマス・ホッブズ [訳]本田裕志

(3)東京の階段—都市の「異空間」階段の楽しみ方 [著]松本泰生

 この2月に急逝された著者(ドイツ文学者・文芸評論家)を偲(しの)びながら、(1)をとりあげる。自伝風の回想をまじえた泉 鏡花論が、9月に文庫化された。折口信夫やホフマンスタールが時に顔を出すのも味わいぶかい。この勢いで、『イロニアの大和』も文庫版で再刊していただけ ないだろうか。

 (2)は、名高い古典の待望の邦訳書。『リヴァイアサン』と並ぶ、トマス・ホッブズの政治哲学書であるが、何しろラテン語の作 品で、専門家でない読者には、これまで近づきにくかった。出版をめぐるきびしい風潮のなか、西洋思想の古典の刊行にとりくんでいる版元の熱意に、思わず脱 帽してしまう。

 今年、手元にもっとも長く置き、しばしば眺めていた本が、(3)である。道筋にある階段に着目した東京本は、たぶん初めてではないか。それぞれの場所に漂う空気が、写真から伝わってきて、この都市の複雑さを、改めて実感する。

表紙画像

市民論 (近代社会思想コレクション 1)

著者:トマス・ホッブズ

出版社:京都大学学術出版会   価格:¥ 4,095

表紙画像

イロニアの大和

著者:川村 二郎

出版社:講談社   価格:¥ 2,625

表紙画像

リヴァイアサン (新潮文庫)

著者:ポール オースター

出版社:新潮社   価格:¥ 700

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