2008年12月17日水曜日

asahi shohyo 書評

学問の下流化 [著]竹内洋

[掲載]2008年12月14日

  • [評者]耳塚寛明(お茶の水女子大学教授・教育社会学)

■結晶化された独自の教養世界

 学界の諸先輩の中には何人かの巨人がいる。接するに、該博な知識、枯れることのない知的体力、専門領域を軽やかに越境する教養に圧倒される。著者もその一人である。

 著者は国立大学を定年退職して野暮(やぼ)な専門研究の枷(かせ)からようやく解放され、大手を振って、本の大海に埋もれる生 活を手に入れたという。本書は、新聞や雑誌に発表したエッセーや書評、評論を集めた雑文集である。著者には大河小説的専門書も多数あるが、この本は雑読系 読書人としての面目躍如の書だと思う。

 軽い文体の短文が多くを占めるものの、鋭く強烈な含意に満ちている。たとえば書名「学問の下流化」は、今日のアカデミズム、す なわち大衆とジャーナリズムにすりよって受けを狙う、学問のポピュリズム化への危機感に由来する。批判の矛先は、専門学会内部での内輪消費のためだけの研 究に自閉化する学問のオタク化にも向けられる。

 雑読系の雑文集などと書いたけれども、けなしているのでは毛頭ない。短い書評群は、おそらくは原著以上の知的躍動を読者にもた らし、雑文たちは編まれて独自の教養世界を織りなす。雑文集ではあるが、それゆえにこそ、凝縮され結晶化された竹内ワールドが明瞭(めいりょう)に浮かび 上がってくる。すごい。

表紙画像

学問の下流化

著者:竹内 洋

出版社:中央公論新社   価格:¥ 1,995

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