2008年12月9日火曜日

asahi shohyo 書評

皇族誕生 [著]浅見雅男

[掲載]2008年12月7日

  • [評者]奈良岡聰智(京都大学准教授)

■皇位継承の不安から明治以降激増

  数年前、皇室典範改正が検討される中で、女性天皇の是非が議論されたことは、記憶に新しい。改正は見送られ、最近議論は沈静化したものの、皇族に男子が少 なく、現状のままでは、近い将来多くの宮家が消滅するという状況は変わっていない。皇位の安定的継承を確保するためには、今後も引き続き、皇族についての 議論を深めていくことが必要であろう。

 それでは、近代日本において、そもそも皇族はどのような役割を担ってきたのだろうか。実は、天皇研究がかなりの蓄積を持つのに 比べ、皇族に関する研究は乏しかった。本書はその欠を埋める労作で、宮家の創設から説き起こし、皇族で唯一首相となった東久邇宮稔彦(なるひこ)王の生涯 までを、通史的に論じている。

 宮家は、幕末までは4家しか存在しなかったが、明治以降に激増した。その要因の一つは、明治天皇の皇位継承への深い不安にあっ た。増加した皇族の男子は、軍人となることが義務づけられたが、意に沿わない進路や特別待遇に悩まされるケースも、少なくなかった。筆者は、豊富な史料を 用いて、このような天皇や皇族たちの姿を等身大で描いており、彼らの苦労が生々しく伝わってくる。

 皇室制度の将来を考える上でも、ぜひ一読をおすすめしたい書である。

表紙画像

皇族誕生

著者:浅見 雅男

出版社:角川グループパブリッシング   価格:¥ 1,680

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