歴史学のフロンティア [編]秋田茂、桃木至朗
[掲載]2008年11月30日
- [評者]南塚信吾(法政大学教授・国際関係史)
■国境を線ではなく面と考える
歴史を考えるうえで、「国境を線とは考えないでおこう。それは、新たな面になるのだ」。この言葉が本書の趣旨を最も象徴的に表している。これまで、われわ れは、国境線によって区切られた国民国家を単位として歴史を考えてきたが、この国民国家を相対化して、世界史へいたる方法を模索しようという試みが、我が 国の内外で、1980年代以来、意欲的に積み重ねられてきている。大阪大学はそういう試みの先端を走っている。本書はその成果の一端を具体化したものであ る。
地域としては、日本、沖縄、中国、ベトナム、東欧を、また素材的には、アジアをめぐる通商や仏像の動きをテーマにして、国民国家単位の歴史の意義は認めつつ、それを突き崩す方法を模索する興味深い論考が並んでいる。
例えば、中国史の枠組みについて、中国自身や日本において今日の中国史ではなく、もっとフレキシブルな広がりをもったものとし て考えていたのだという指摘。また、ベトナムにおいて山は境界ではなくて外への窓であって、ベトナム史も「多数のベトナム史」として考えるべきであるとい う提案や、世界を一つの「システム」として考えて国民国家を相対化する方法の新たな展開などが記される。斬新な提案が多く、学ぶべきところの多い本であ る。
- 歴史学のフロンティア—地域から問い直す国民国家史観 (阪大リーブル)
出版社:大阪大学出版会 価格:¥ 2,100
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