2009年10月11日日曜日

mainichi shasetsu 20091011

社説:視点:貸し渋り対策 国民の負担軽くみるな

 金融庁が貸し渋り・貸しはがし対策の骨格をまとめた。亀井静香・金融担当相の威勢のいい発言から、当初、中小企業向け融資や住宅ローンの返済が一律に猶予されるのではないかと思われたが、金融機関への強制ではなく努力目標にトーンダウンされたようだ。

 民間の契約に国家が直接介入するという最悪の事態は避けられそうだが、だからといって歓迎できる対策ではない。

 まず、どういう企業を救うかという選定の難しさがある。借金の返済を一時的に棚上げすることで、中小企業の業績が回復すればもちろんいい。しかし、破綻(はたん)の恐れがある企業まで対象となる心配もある。

 金融庁案によると、金融機関はどれだけ返済猶予に応じたかを国会に報告しなければならない。ある程度応じないと名指しで非難されるだろう。万一、 返済猶予先が倒産しても、銀行が損をしないよう政府が保証を付けるともいっている。業績回復の見込みが低くても、救済しておこう、とならないか。

 銀行に代わり損をするのは納税者だ。しかも、いったん救済を始めると期限が来てもやめにくいものだ。私たちの負担はどこまで膨らむことだろう。

 中小企業の借り入れには昨年秋以降、すでに14・5兆円の政府保証(納税者保証)がついている。焦げ付きを想定し国民の金が2兆円近く用意された。追加がいくら必要になるのか、亀井さんも答えられまい。

 自民党政権下では、長い間、一般世帯の負担で企業を支える政策が続けられた。民主党が批判してきたことだ。超低金利政策も形を変えた借り手への補 助金といえる。仮に1991年の金利水準が続いていたら、2005年までの間に国民は330兆円もの追加利子を得ていたはずだという。福井俊彦・前日銀総 裁が明らかにしている。09年までならもっと額は大きいはずである。

 ローンの借り手として低金利の恩恵を受けた預金者もいるだろうから負担ばかりともいえないが、長期にわたるさまざまな救済措置には、企業の経営改 革を遅らせたり、破綻状態の企業をいたずらに延命させたとの批判もある。倒産や失業率を抑えられたかもしれないが、この間、日本経済は活力を取り戻した か。目立つのは借金の山だけだ。

 苦しんでいる企業や人を助ける友愛精神は聞こえがいい。政治家には格好のアピール材料だ。だが、新たな支援策を始める前に、もう一度、これまでの膨大な国民負担が何を生んだのか、見つめ直した方がいい。【論説委員・福本容子】

毎日新聞 2009年10月11日 0時01分




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