2009年10月3日土曜日

mainichi science society Nobel Prize

ノーベル賞:今年は誰に 秘密主義がドラマ演出

2009年10月3日 10時53分 更新:10月3日 12時33分

 科学者にとって最高の栄誉、ノーベル賞の季節がやってきた。08年は日本生まれの科学者4人の受賞ラッシュに沸いた。しかし、発表当日まで受賞者に通告はなく、選考過程は50年間非公開。徹底した秘密主義がその権威を高めている。【元村有希子、関東晋慈】

 ■毎年300人の推薦

 受賞者の最終決定は各賞の選考機関が設置する少人数の委員会が受け持つ。毎年9月、各委員会は過去の受賞者や大学教授ら約3000人に推薦依頼状 を発送。翌年1月末に締め切り、250〜300人の候補者を絞り込む。最終選考は発表日当日、数人から多数決で選ぶ。ノーベル財団のオキュスト副理事長は 「我々は新分野の開拓者にこだわる。ノーベル賞が高い評価を得てきた理由は、揺るがない選考基準」と話す。

 推薦依頼状を受け取ったことがある日本人研究者は「誰を推薦するか、他の研究者と話し合うことは禁じられていた」と語る。

 推薦されながら受賞しなかった日本人は多い。細菌学者の北里柴三郎は第1回医学生理学賞の有力候補、野口英世は3度候補になった。病理学者の山極 勝三郎は、当時論争のあった発がん機構で「寄生虫原因説」を唱えたデンマークの科学者に敗れた(その学説は後に否定)。こうしたドラマも、選考50年後に 資料が公開されて初めて明らかになる。

 ■前兆はあるの?

 秘密は候補者本人に対しても守られる。02年に化学賞を受けた島津製作所の田中耕一フェロー(50)は発表当日、ノーベル財団からの電話を直接受け「どっきりカメラかと思った」と語った。

 医学生理学賞(87年)の受賞者、利根川進・理化学研究所脳科学総合研究センター長(70)は受賞の数年前、スウェーデンに招待された。同賞の選 考機関、カロリンスカ研究所でくつろいでいると、カメラマンに多数の写真を撮られた。「今思えばあれが調査の一環だったかな」と笑う。

 08年、物理学賞を受賞した小林誠・高エネルギー加速器研究機構特別栄誉教授(65)の場合、発表日前日に小林さんの所在を尋ねる国際電話が、ス ウェーデンの大学関係者の家族を名乗る人物から同機構にかかった。「絶妙なタイミングで、いよいよ来るぞと緊張した」と広報担当者。

 ■ノーベル賞の登竜門

 「ノーベル賞の登竜門」と言われる、国際的な賞もある。

 1946年創設で、343人の受賞者中76人が後にノーベル賞を受けた米の「ラスカー賞」。08年は高脂血症治療薬「スタチン」を開発した遠藤章・東京農工大特別栄誉教授(75)、今年はiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作った山中伸弥・京都大教授(47)が受賞した。

 米の「ベンジャミン・フランクリンメダル」は、炭素でできた極細素材「カーボンナノチューブ」を発見した飯島澄男・NEC特別主席研究員 (70)、青色発光ダイオード(LED)の量産技術を発明した中村修二・カリフォルニア大教授(55)らが受けた。イスラエルの「ウルフ賞」や日本の「日 本国際賞」も後にノーベル賞受賞者を生んだ。

 また、米の文献データ会社が論文の被引用数などから選んだ「今年の有力候補」25人の中に、今年は、脳の働きが時間とともにどう変わるのかが分かる機能的MRI(磁気共鳴画像化装置)の手法を開発した小川誠二・東北福祉大特任教授(75)が入った。

 今年の自然科学3賞の発表は、5日医学生理学賞▽6日物理学賞▽7日化学賞だ。さて、栄冠は誰の頭上に?

 【ことば】ノーベル賞

 スウェーデンの化学者アルフレッド・ノーベル(1833〜96年)の遺言により創設された。物理学、化学、医学生理学、文学、平和の5分野で 1901年に始まり、経済学賞が69年に加わった。08年までの受賞者は809個人・団体。授賞式はノーベルの命日の12月10日に開かれ、賞金は各賞 1000万クローナ(約1億3100万円)。日本人受賞者は米国籍の南部陽一郎氏(08年物理学賞)を含め16人。

◆著名な賞を取った日本人科学者◆

(文部科学省などの資料を基に作成)=敬称略。◎印はノーベル賞受賞

ラスカー賞(米国)

 82年 花房秀三郎

 87 ◎利根川進

 89  西塚泰美

 98  増井禎夫

 08  遠藤章

 09  山中伸弥

ウルフ賞(イスラエル)

 84/85小平邦彦

 86  早石修

 87  伊藤清

 94/95西塚泰美、◎南部陽一郎

 00 ◎小柴昌俊

 01 ◎野依良治

 02/03佐藤幹夫

日本国際賞(日本)

 88  蟻田功

 96  伊藤正男

 97  杉村隆、吉川弘之

 98 ◎江崎玲於奈

 00  石坂公成

 03  小川誠二

 04  本多健一、藤嶋昭

 05  長尾真、竹市雅俊

 06  遠藤章




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