「見開き4首」に啄木の狙い 歌集「一握の砂」
2008年12月6日
3行分かち書きの短歌を1ページに2首ずつ配した、石川啄木歌集『一握の砂』の初版本が、朝日文庫で再現された。「見開き4首。この体裁にこそ啄木のもく ろみがある。1ページに3首を詰め込む『一握の砂』では伝わりにくい歌物語の構想を、本来の形で伝えたい」と脚注と解説を手がけた啄木研究者の近藤典彦さ ん(69)は話している。
石川啄木(1886〜1912)。貧困と病苦の中で、閉塞(へいそく)した時代状況と切り結んだ文学者である。朝日歌壇初代選 者でもあった。詩才を評価されながら26歳で早世した。『一握の砂』は、1910年刊行。編集一切を自ら手がけた唯一の歌集だ。啄木は東北、北海道を転々 としたが、収録の551首はみな東京で、08〜10年の短期間に詠まれたという。
〈東海(とうかい)の小島(こじま)の磯(いそ)の白砂(しらすな)に/われ泣(な)きぬれて/蟹(かに)とたはむる〉〈頬 (ほ)につたふ/なみだのごはず/一握(いちあく)の砂(すな)を示(しめ)しし人(ひと)を忘(わす)れず〉に始まる「我を愛する歌」から「手套(てぶ くろ)を脱ぐ時」に至る全5章。旧字を新字に変えたほかはすべて初版本を踏襲した。
近藤さんは、歌の配列に啄木の砕身を見る。「例えば第1章は、自己紹介にあたる〈蟹とたはむる〉〈一握の砂〉二首を冒頭に置 き、ページをめくるごとに、悩み事があって家をでた→海に行った→砂山でこんなこと、いろいろあった→そして家に帰ってきたと、心の百態を描いていく」
「各章ともにプロローグとエピローグを作り、間に置いた見開き4首を区切りに次々と読者の興味を誘う歌を展開するドラマチックな仕掛け。追い込んで流し組みにするとそういうねらいが台無しになってしまう」
「夢やあこがれ、自負、失意。啄木の一生が凝縮した『一握の砂』。〈はたらけど/はたらけど猶(なほ)わが生活(くらし)楽にならざり/ぢつと手を見る〉など格差社会の現代日本にあって啄木歌は一層リアルだ」と近藤さん。(河合真帆)
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