2008年12月4日木曜日

asahi shohyo 書評

名作童話—宮沢賢治20選 [編]宮川健郎

[掲載]2008年11月26日朝刊

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■素朴で奥深い童話の世界を堪能する

  宮沢賢治の童話が20編収められている。さて、いくつ読んだことがあるかと目を通していくと、半分にも満たなかった。「どんぐりと山猫」「注文の多い料理 店」などは教科書や絵本で読んだことがあるが、「革トランク」「ざしき童子のはなし」といった小品はタイトルも知らなかった。宮沢賢治という、日本では知 らない者がいない有名作家でさえ、実際に読み終えた作品は多くないのである。

 本書の収録作品は、愛読者でも、初めての読者でも楽しめるものという基準で選ばれている。巻頭から読み進めていくと、まず短い 作品が連なり、半ばから有名な作品が顔を出し、後半に「グスコーブドリの伝記」「風の又三郎」といった長めの作品が置かれる。この構成の妙が、読み手を賢 治の世界へ誘うのだ。そして、やがてページの裏側から懐かしい匂(にお)いが立ち上るのを感じはじめる。「風の又三郎」の「どっどどどどうど」というフ レーズ、「よだかの星」のラストに置かれた「よだかの星は燃えつづけました」という一文が鍵となって、記憶の扉を開け放つようなのだ。これらの童話を読ん だ子供時代を思い返してしまう。同時に、大人の目にも新鮮で、楽しく映るのである。

 なお、同じシリーズとして来年1月中旬には『小川未明30選』、2月中旬には『新美南吉30選』が発売される。こちらも、ぜひ読みたくなってしまった。

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宮沢賢治20選 (名作童話)

著者:宮沢 賢治

出版社:春陽堂書店   価格:¥ 2,730

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