2009年10月29日木曜日

mainichi shasetsu 20091029

社説:国会論戦 民主党の質問も必要だ

 政権交代後、初の本格論戦となる各党代表質問が28日衆院本会議で始まった。総じていえば論点は出そろったものの、自民党の谷垣禎一総裁ら野党側の質問は迫力に欠け、鳩山由紀夫首相の答弁も質問を逆手に取ってかわす場面が多かった。議論が深まらなかったのは残念だ。

 自民党から批判される筋合いはない−−。この日、目立ったのはこんな首相の答弁だった。例えば来年度予算の概算要求が95兆円と膨れ、財政再建の 道筋が見えないと谷垣氏に追及されると、首相は麻生前政権下では補正予算と合わせ105兆円になったと指摘して「あなた方に言われたくない」「こんな財政 にしたのは誰なのか」と反論した。

 米軍普天間飛行場の移設問題でも首相は「最後の意思決定は私が行う」と語ったものの、方向性は示さず、「今まで10年以上結論を出さなかったのはどの政権だったのか」と切り返すだけだった。

 これまでの政権に大きな責任があるのは事実だ。だが、鳩山政権発足以来、既に40日以上。いつまでも前政権批判にとどまっているわけにはいかな い。マニフェスト政策実現のための財源に関しても「一般会計と特別会計を含め予算を組み替え、財源は必ず確保する」と言い続けるだけでは、やはり限界があ る。

 このほか首相自身の「故人」献金問題も、「捜査に全面協力する」と答えるだけで歯切れは悪かった。

 今後の質疑に期待するほかないが、国会のあり方についてもう一つ、見逃せない点がある。民主党は衆院代表質問で質問者を立てなかったのに加え、衆院予算委での質問も不要との声まで党内にあることだ。

 確かに小沢一郎幹事長が言うように「政府の太鼓たたきのような与党質問」は要らない。「政府・与党の一元化」という原則も理解はできる。しかし、与党側も国会論戦を通じて問題点を洗い出し、よりよい法案に修正していくのは立法府たる国会の当然の使命だ。

 法案を国会に提出する前に与党が可否を決めるという自民党政権で続いてきた事前審査方式を、民主党は廃止した。ならば、いっそう国会での審議が重 要となるはずなのに、首相はこの日、政府に入っていない民主党議員も各省政策会議の場で意見を述べる機会はあると答弁した。これで済むとしたら、事前審査 とさして変わらないのではないか。

 民主党は衆参予算委の日数も極力少なくしたい意向という。国会より予算編成作業を優先させたいとの理由のようだ。しかし、この日、「大いに議論しよう」と呼びかけたのは首相本人だ。求められているのは「議論する国会」である。

毎日新聞 2009年10月29日 0時02分




mainichi shasetsu 20091029

社説:護衛艦衝突事故 「難所」安全策は万全か

 関門海峡で27日夜、西に向かっていた海上自衛隊の護衛艦「くらま」と、東進中の韓国船籍のコンテナ船「カリナスター」が衝突した。火柱が上が り、両船の船首部分が大破したが、くらまの6人の軽傷にとどまったのは不幸中の幸いだった。第7管区海上保安本部が現場検証しているが、政府と海保に求め たいのは、原因と回避行動の徹底究明、難所とされる海域の航行対策である。

 現場となった関門海峡の「早鞆(はやとも)の瀬戸」は、大きく湾曲して見通しが悪いうえ、可航幅が約500メートルしかなく潮流も強い、国内有数の「航海の難所」である。ここを1日約600隻もの船舶が往来し、年平均19.4隻が関係する事故が起きている。

 今回の事故では、互いに右側を航行するルールとなっている現場で、コンテナ船が前方の船を追い越そうとして左側にふくらみ、くらまの針路に進入し た可能性が高い。左側の追い越しは、関門海峡を管轄する海保の管制室の助言だった。海保は、乗組員の聴取や、双方の船舶自動識別装置による航跡・速度の解 析などによる究明のほか、管制内容が妥当だったかどうかも調査すべきだ。

 また、双方の回避措置が妥当であったかどうかも焦点だ。北沢俊美防衛相は、くらまは通常、夜間には総員の3分の1で見張りをするが、狭水道であることから全員配置とし、衝突の危険を察知した艦長が停止のための逆進をかけたが間に合わなかったと説明している。

 防衛省は、昨年2月のイージス艦「あたご」と漁船の衝突事故を受けて、報告・通報を含む見張り能力の向上、指揮の徹底をはじめとする再発防止策を 打ち出した。防衛相への報告は、あたご事故で1時間半かかったが、鳩山政権発足後初の「有事」となった今回は14分後だった。この点では大幅に改善した。 しかし、見張りの実態や、あたご事故で問題となった回避行動の実情については詳しい調査が必要である。

 さらに、難所での航行規則の見直しについて指摘しておきたい。

 「早鞆の瀬戸」では、04年12月、西向きの強い潮流を受けながら東進していた貨物船が、前を行く油送船を追い越そうとして衝突した事故が起き た。また、05年4月には、東向きの潮流のなかで西進していた貨物船が油送船に追い越しをかけた時、東進する船舶を避けようとして油送船に衝突する事故が 発生している。

 関門海峡は、中国や韓国など東アジアの海の玄関口であり、外国船の航行も多い。航路拡幅などで安全性は向上しているとはいえ、海上交通の要衝が難所である実態は変わりない。「追い越し」を含め航行規則の再検討も必要ではないだろうか。

毎日新聞 2009年10月29日 0時04分

 


asahi government society life mature age 20 18

「18歳成人が適当」法制審が答申 時期は国会に委ねる

2009年10月29日3時6分

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写真:千葉景子法相(左)に成年年齢引き下げの答申を手渡す法制審の青山善充会長=28日午後、東京・霞が関、細川卓撮影千葉景子法相(左)に成年年齢引き下げの答申を手渡す法制審の青山善充会長=28日午後、東京・霞が関、細川卓撮影

 法制審議会(法相の諮問機関)は28日、民法上の成年年齢を現行の20歳から18歳に引き下げるのが適当とする結論をまとめ、千葉景子法相に答申した。 引き下げ実施の時期は国会の判断に委ねた。鳩山由紀夫首相は同日、選挙権の年齢を20歳から18歳へとすることを念頭に「法制審が方向をお決めになったと いうことは大きなステップだとは思います」と語った。

 「18歳成人」の議論は、憲法改正の手続きを定めた国民投票法(07年5月成立)が18歳以上に投票権を与えるとしたことがきっかけ。同法は付則 で、10年5月の施行までに、民法や公職選挙法など年齢制限がある法令についても「必要な措置を講ずる」ことを求めていた。答申により、今後は、政府が民 法改正や公選法改正に実際に乗り出すかどうかが焦点になる。

 法制審では昨年2月に諮問を受けた後、「民法成年年齢部会」で調査や検討を重ねてきた。部会は今年7月の最終報告で、公選法が定める選挙権年齢が 18歳に引き下げられることを前提に、成年年齢も引き下げを認める方針を打ち出した。社会参加の時期を早めれば、若者が「大人」の自覚を高められることな どを意義として挙げた。

 一方で、引き下げれば親の同意がなくても契約を結べるようになるため、18〜19歳が悪質商法やマルチ商法などの消費者被害に遭うおそれが増すと 指摘。消費者保護策や若者の自立支援策の充実を併せて求め、引き下げ時期はそれらの進み具合を踏まえて国会が判断するものとした。

 最終報告後の法制審総会では「引き下げ時期を答申に明記すべきだ」という意見も出たが、消費者保護策など他省庁にまたがる課題が多く、最終的には具体的な期限を示すのは難しいという認識で一致。部会の結論を了承した。(延与光貞)




asahi culture literature film beauty and beast Shohei Ooka manuscript

映画「美女と野獣」、大岡昇平の字幕原稿見つかる

2009年10月29日5時30分

写真:大岡昇平が執筆した「美女と野獣」の字幕原稿大岡昇平が執筆した「美女と野獣」の字幕原稿

写真:大岡昇平大岡昇平

 生誕100年を迎えた作家の大岡昇平(1909〜88)が書いた、フランス映画「美女と野獣」(46年)の日本語字幕の原稿が見つかった。タイプ打ちで58ページ。全文残っていた。

 大岡は、同作が日本で封切られた48年当時、洋画輸入会社のフランス映画輸出組合日本事務所(後に新外映)に文芸部長として勤務していた。スタンダール 研究で知られる語学力を生かし、フランス映画の字幕翻訳や宣伝媒体向けの文章を書いていたといわれる。フィリピンから復員して、出世作となった小説「俘虜 記」を発表した頃に当たる。

 この原稿は、同事務所関係者が東京国立近代美術館フィルムセンターに寄贈した資料の中にあった。当時の字幕付きプリントが残っておらず、今回の原 稿がそのまま使われたかどうかは不明だが、大岡の字幕で封切られたとされる。「美女と野獣」はジャン・コクトー監督、ジャン・マレー主演。ディズニー・ア ニメにもなった。

 原稿は来年1月から開かれる同フィルムセンターの展覧会「戦後フランス映画ポスターの世界」で公開される。(石飛徳樹)




asahi international health life metabolic syndrome

やせてても「メタボ」 国際組織が新たな基準

2009年10月29日14時4分

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 メタボリック症候群の基準をどうするか検討していた国際組織が、内臓脂肪の量をみる腹囲について「大きくなくてもメタボの恐れあり」との見解をまとめ、 新たに統一の基準を作った。日本のメタボ基準では腹囲が必須条件。だが、専門家からは「やせていて病気のリスクが高い人を見落とす恐れがある」という声も 出ていた。

 メタボリックは「代謝」を意味しており、肥満や高血糖といった問題が重なると、心筋梗塞(こうそく)や脳卒中を起こすリスクが高まるという考えが 基本にある。国際糖尿病連合(IDF)はこれまで日本と同様に腹囲を必須条件にしていたが、米国はそうではなく、基準がバラバラだった。

 今回統一見解に加わったのはIDF、世界心臓連合、国際動脈硬化学会など六つの組織。議論の結果、腹囲のほか中性脂肪、HDLコレステロール、血 圧、血糖値を加えた5項目のうち、3項目以上の検査値に異常があれば、メタボとすることに決めた。腹囲が普通でも、血圧や血糖値などに異常があればメタボ ということになる。腹囲の値は、国や民族ごとにそれぞれ定めるとしている。

 日本では男性85センチ以上、女性90センチ以上という腹囲であることが第一条件。ただ「女性の方が大きいのは変だ」との声が国内外から出て、厚生労働省の研究班が測定値を見直す作業を進めている。

 また、太っていなくても血圧や血糖値といった異常が重なる人は日本人に多く、心筋梗塞や脳卒中のリスクも高いことが調査でわかっている。腹囲が大 きくないと特定健診にもとづく保健指導の対象にならないのが現状だが、「やせていてリスクの高い人への対策が不十分」との指摘があった。新しい世界基準だ と、こうした人たちもメタボに含むことになる。

 日本の立場を代表して議論に参加した日本糖尿病学会理事長の門脇孝・東京大教授は「血圧や血糖値などの異常が重なる原因の多くは内臓脂肪の蓄積だ とわかってきており、有効な対策を考えるためにも腹囲を必須にした方がいい。日本としては今の基準を堅持する」と話している。(田村建二)



asahi shohyo 書評

書く—言葉・文字・書 [著]石川九楊

[掲載]2009年10月25日

 書は絵画のような美術ではない、と著者は断じる。筆が紙に触れるや、微粒子的律動の跡が点画に、文字に、文章になる。単なる図形ではなく、できあがるまでの過程こそが芸術だ。手に筆を持ち、書くという行為の奥深さに気づかされる。時代につれ文字の姿が変わるのも劇的だ。

表紙画像

書く—言葉・文字・書 (中公新書 2020)

著者:石川 九楊

出版社:中央公論新社   価格:¥ 777

asahi shohyo 書評

美術で読み解く 新約聖書の真実 [著]秦剛平

[掲載]2009年10月25日

 「受胎告知」や「最後の審判」など、聖書の世界を西欧の宗教画から読み解く。福音書の記述の不明確さに時代の作為を指摘する批判的見方や、フェルメールの名画に透視されるキリスト教的世界観などがつづられている。豊富な図録も魅力。