2009年9月17日木曜日

mainichi shasetsu 20090917

社説:鳩山政権発足 恐れず「チェンジ」を貫け

 この日が日本の歴史的転換点となることを願ってやまない。民主党の鳩山由紀夫代表が16日、衆参両院で首相に指名され、民主、社民、国民新3党の連立政権が発足した。

 今回の政権交代は、先の衆院選で多くの有権者が民主党に、さまざまな「チェンジ」を期待し、1票を投じて実現したものだ。当面、混乱も予想されようが、それを恐れず、新政権には果敢に政治の刷新に取り組んでもらいたい。

 与えられた使命は十分承知しているだろう。鳩山新首相は初の記者会見で「とことん国民のための政治をつくる。脱・官僚依存の政治を今こそ実践していかなくてはならない」と強調した。

 ◇手堅さ優先の人事

 その政治主導を目指すという鳩山内閣の布陣は、副総理兼国家戦略担当相に菅直人代表代行、外相に岡田克也前幹事長、国土交通相には前原誠司副代表と歴代代表を起用するなど、党内バランスと安定感を重視した形となった。

 厚生労働相に当選4回の長妻昭政調会長代理を充てたほかは抜てき人事は少なく、女性閣僚も2人にとどまって民間人の起用もなかった。鳩山首相には派手さより手堅さをアピールすることで、初の本格的な政権交代に対する国民の不安を払しょくしたい狙いがあったのだろう。

 一方、党内実力者の小沢一郎幹事長に批判的だった仙谷由人元政調会長を行政刷新会議の担当相に起用したのは「閣僚人事でも小沢氏の影響力が強まるのではないか」といった声にも気を使ったと思われる。

 連立相手である社民党の福島瑞穂党首は消費者・少子化などの担当、国民新党の亀井静香代表は金融・郵政担当で入閣、両党の要望にも応えた。総じて言えば気配り型人事だ。

 無論、大切なのは具体的に何を実行していくかだ。内外に課題は山積している。だが、私たちはまず、旧来の行政の悪弊を絶つことが新政権の役目だと考える。つまり行政の大掃除である。

 目に余る税金の無駄遣い。「省あって国なし」の縦割り行政。前例踏襲主義。政治家、官僚、業界のもたれ合い。ここからの脱却は既得権益とはしがらみのない新しい政権だからこそ可能であり、政権交代の大きなメリットでもあるからだ。

 カギを握るのは国家ビジョンや予算の骨格を作るという国家戦略局だ。従来の予算編成は各省庁ごとに積み上げる縦割り型で、しかも、既得権にとらわれ毎年、ほとんど配分は変わらなかった。これを首相らの主導で総合調整するというものだ。

 閣議を事前におぜん立てしてきた事務次官会議を廃止する点も注目したい。会議は全員一致が原則で一省庁でも反対すれば成案が得られず、改革が進まない要因と指摘されてきた。廃止されれば首相や閣僚の権限は間違いなく強まるはずだ。

 ◇情報公開も重要だ

 戦略局が本格始動するのは10月の臨時国会で戦略局に権限を付与するための法案が成立した後となり、当面は国家戦略室としてスタートさせるとい う。しかし、さっそく前政権が5月に成立させた今年度補正予算の見直しに取り組むことになる。メンバー構成など制度設計を急ぐべきだ。また、ここを足場に 政策の優先順位を明確にし、めりはりの利いた政権運営をしてほしい。

 戦略局と車の両輪の役目を担うのが行政刷新会議だ。税金の無駄遣いや行政の不正を洗い出し、政策の財源を確保するという組織だ。隠れた無駄はまだ あるのではないか。同じ事業を執行するにしても、これまで高額になり過ぎていなかったのか。この見直し作業がマニフェスト実現の成否を決するといってい い。

 省庁が公表してきたデータを疑っている国民は多いはずだ。岡田外相の課題となる米艦船の核持ち込みをめぐる日米密約の検証などを含め、これまでは表に出ることがなかった情報や資料を公開していくのも政権の責務である。

 官僚の抵抗を排することができるかどうかは鳩山首相のリーダーシップにかかっている。あいまいさが残る菅副総理、藤井裕久財務相、岡田外相らの役 割分担を明確にし、首相を支える体制の構築も重要だ。多くの有権者が民主党に期待したのは、ひとり鳩山首相だけでなく、「チーム民主」だったと思われるか らだ。

 鳩山首相が会見で「試行錯誤の中で失敗することもある」と認めたように確かに不安を抱えた船出だ。だが、有権者が選挙で与党を代える政権交代の仕組みを日本に定着させるためには一度は通らなくてはならない道だ。

 来年7月にはもう参院選が待っている。鳩山政権に必要なのは、それまでに一つでも二つでも「政治は明らかに変わった」と国民が感じられる実績を示すことである。

毎日新聞 2009年9月17日 0時07分




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