2009年9月20日日曜日

mainichi shasetsu 20090919

社説:「会見禁止令」 政治主導の看板が泣く

 鳩山新政権が順調に滑り出した。各閣僚の記者会見も意欲的な政策表明の場になっている。ただし、各省事務次官らに対する記者会見の原則禁止措置はいただけない。むしろ、政治主導に逆行する恐れがある。

 禁止令は、閣僚懇談会での「事務次官等の定例記者会見は行わない」との申し合わせとして政権発足の16日に各省に通達された。これが取材の現場で 混乱を生じさせている。17日には、気象庁が長官の定例会見を中止、外務省はニューヨーク国連代表部の高須幸雄大使の会見まで中止させた。このほか、省庁 や地方の出先機関が一斉に会見を自粛するなど官側の過剰反応と思われる事態が続出している。災害に関する専門的情報、外国に対する発信まで一律に封じるの はいかがなものか。

 新政権の眼目は、官主導から政治主導への転換である。霞が関の官僚軍団が情報と権限を独占し国益より省益護持に走っている現状を克服、政治が民意 を背に一段高い立場から官僚をコントロールし国民益を図ろう、という路線は正しいし、国民から圧倒的な支持を受けたことは選挙結果が物語っている。

 ただ、そのことと官僚が持っている情報を国民にどう開示していくか、という問題は別である。多分、官僚が自分たちに都合のいい情報だけを流すことを警戒した措置であろう。官僚が会見などの場を持ってこなかった英国方式を取り入れた、とも聞く。

 だが、逆も真なり、で、政治が自らのフィルターを通しただけの情報提供には抵抗がある。何もすべて英国をまねする必要もないだろう。新政権がこう いった情報を駆使して政策決定していくことと、その政策決定過程を透明度の高いものにしていくことは、セットとして考えるべきだ。国民の支持があって政治 主導が成立する。そのためにも、官僚からメディアに情報提供されるルートをあえて切断する必要はない。さまざまな角度からの情報があるからこそ、物事が立 体的に見えるからだ。

 この問題については、新政権側からも収拾の動きがでてきた。18日、鳩山由紀夫首相が閣僚からの指示があれば事務次官会見も認める、と新たな指針 を示した。もちろん、メディア側も情報の受け皿としての既得権に甘えるつもりはないし、官僚の情報を垂れ流しにしてきた、という批判があるのも承知してい る。ただし、ここは正々堂々たる真の政治主導を実現するための重要な局面である。民主党の持つ情報公開力こそが政権交代につながった、ということを改めて かみ締めてほしい。

毎日新聞 2009年9月19日 0時12分




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