裏返し文章講座—翻訳から考える日本語の品格 [著]別宮貞徳
[掲載]週刊朝日2009年9月25日号
- [評者]温水ゆかり
■悪訳は 日本語を汚染する
アンビリバボー。原文ではこうだったとは。欠陥翻訳を通して日本語の品格を問う爆笑講談、じゃなかったオモシロ講座である。
さて誤訳と悪訳、どちらがより性悪かといえば、別宮先生(元上智大学教授)は後者だとおっしゃる。前者は直せるが、後者は日本 語を汚染する。文末が「のだ」で統一された「のだ、のだ、のだの野田さん節」、助詞の「の」が延々と続く♪「のの花畠に意味は薄れ……」、関係代名詞を直 訳する「ところ、ところ、のところ天」など、悪文例を引きながらのネーミングに膝を打つが、笑ってばかりもいられない。アダム・スミスの『国富論』、ガル ブレイスの『不確実性の時代』、『チャタレイ夫人の恋人』や『嵐が丘』などにどんなトンデモ訳が含まれているか知ったら卒倒する。読んでわからないのは、 自分の頭が悪いせいと卑下する読者の心性を、先生はこれまた権威への盲従と指摘。はい、この四半世紀、スタイン(元祖ロスジェネの命名者)の『三人の女』 に何度も登攀を試みてきた私は隠れ権威主義者でした。返せ、私の青春(涙)。
思えば別宮先生のお仕事は、翻訳の一人消費者庁。天下りなし、"ご信頼できますわ"(「わ、わ、わ、のわ印文」)。
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