2009年9月28日月曜日

mainichi shasetsu 20090926

社説:「核なき世界」決議 日米は廃絶の先頭に立て

 さびついた巨大な歯車が音を立てて動いたようだ。あの9・11同時多発テロから8年。米ブッシュ政権下で「反米」「親米」などと息苦しく分断された世界は、オバマ政権になって風向きを大きく変えた。

 国連安保理の首脳会合でオバマ大統領が議長を務め、「核兵器のない世界」をめざす決議を全会一致で採択したのは、前政権下で国際的孤立の感があった米国が信頼を取り戻しつつあることを示していよう。

 非常任理事国・日本の鳩山由紀夫首相も、唯一の被爆国の「道義的責任」として核廃絶の先頭に立ち、非核三原則を堅持する決意を表明した。文字通り「歴史的な決議」(オバマ大統領)として高く評価したい。

 ◇大統領の広島、長崎訪問を

 もちろん、決議ひとつで世界が一変するわけではない。厳しい現実は残り、「どうせ核兵器はなくせない」という冷笑主義も残るだろう。だが、「悲観 主義は気分から、楽観主義は意志から生まれる」(フランスの思想家アラン)とすれば、問われているのは、何としても核兵器を全廃するという強い決意であ る。

 その意味で日米の連携はきわめて重要だ。オバマ大統領は4月のチェコ・プラハでの演説で「核なき世界」の構想を打ち上げ、核兵器を使った唯一の国 としての「道義的責任」を認めた。核兵器使用に関して日米は特別な立場にある。両国の「道義的責任」が共鳴する形で、世界を核廃絶へ導くことが望ましい。

 この際、重ねて要望したいのは、オバマ大統領の広島、長崎訪問である。首脳会合で鳩山首相も、同大統領を含めた「世界の指導者」に対して、広島、長崎訪問を呼び掛けた。

 原爆投下の責任論や日米関係も含めて、確かに難しい問題もあるだろう。だが、人間の素朴な気持ちを大切にしたい。「核なき世界」をめざす旅は、そ の恐ろしい兵器で命を奪われた人々への鎮魂から始まると私たちは信じる。原爆の「グラウンド・ゼロ(爆心地)」を自分の目で見るのは、来年4月にワシント ンで「核安保サミット」を開くオバマ氏にも有益だろう。

 振り返ると、核兵器をめぐるオバマ氏の指導力は、目を見張るものがあった。プラハ演説に続いて、7月にはロシアと戦略核弾頭の相互削減に合意し、イタリアのラクイラ・サミットでは「核なき世界」に向けた首脳声明の採択を根回しした。

 今月17日には、米露間の火種になっていた東欧ミサイル防衛計画の見直しを発表し、ロシア指導部に歓迎された。第1次戦略兵器削減条約(START1)に代わる条約についてもロシア側と合意している。

 ブッシュ政権下で「新たな冷戦」さえ懸念された米露が着実に歩み寄り、安保理15カ国の全会一致によって世界を核軍縮・全廃路線へと導いたのは、時代の変化を如実に感じさせる出来事である。

 ◇増える核兵器保有国

 前途はもちろん容易ではない。核拡散防止条約(NPT)によって核兵器保有を認められた米英仏露中の5カ国のほか、イスラエルが多数の核弾頭を保 有するのは公然の秘密だ。インドとパキスタンも核兵器を保有し、北朝鮮も2度にわたって核実験を行った。イランの核兵器開発疑惑も消えることがない。

 世界は危険な状況だ。オバマ政権が核軍縮に熱心なのは、テロ組織が核兵器保有を狙っているためでもあろう。だが、核拡散に対して米国の元高官ら は、前から核廃絶を模索していた。核廃絶を願った米大統領もオバマ氏が初めてではない。オバマ政権になって核廃絶がやっと世界の共通目標になったというこ とだ。この貴重な弾みを大切にしたい。

 今回の決議には、NPT体制の強化、核実験全面禁止条約(CTBT)の早期発効、核兵器の材料をなくす兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオ フ条約)の交渉促進など、日本が重要な役割を果たせる課題も多い。国際原子力機関(IAEA)の次期事務局長は天野之弥氏だ。来年5月のNPT再検討会議 に向けた日本の調整にも期待したい。

 他方、米国の「核の傘」に依存する日本が核廃絶を求めるのは矛盾だ、という意見がある。鳩山首相が表明した「非核三原則の堅持」への批判もあろ う。だが、少なくとも、こう言えるのではないか。「核なき世界」をめざすことと、「核の傘」で現実の脅威に対処するのは、次元が異なる問題である、と。

 安保理での演説で、オバマ大統領は北朝鮮やイランにも決議順守を求め、安保理の結束によって両国に圧力をかけていく姿勢を見せた。日米中露が協力すれば北朝鮮情勢の好ましい変化も期待できよう。

 だが、理想を描くだけでは現実は変えられない。今後問われるのはオバマ大統領の実行力、そして日本の外交力であるのは言うまでもない。

毎日新聞 2009年9月26日 0時02分



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