2009年9月30日水曜日

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国文学者・小西甚一さんの未完原稿、教え子ら刊行

2009年9月30日

  国文学者の小西甚一さん(1915〜2007)が大著『日本文藝(ぶんげい)史』の別巻として晩年に心血を注ぎながら、本にできなかった『日本文学原 論』(笠間書院)が、教え子らの尽力で刊行された。日本文学研究の手法を原理的に詳述し、細分化が著しい国文学研究の動向に対する批判の書ともいえる。

 『文藝史』全5巻は、記紀から三島由紀夫に至る日本文芸の流れを、同時代の世界文芸と関連づけながら精緻(せいち)に分析し、92年に完結した。その直後から『原論』の執筆を始め、ラテン語を学び直すなどした。しかし高齢と病気のために脱稿できなかった。

 師事した久保木哲夫・都留文科大名誉教授らが遺族に調べてもらったところ、段ボール2箱分の未整理の遺稿やメモが見つかった。6人の教え子が読み解くと、小西さんが構想していた内容の5割は完成稿ができ、3割は未定稿か下書きが残されていることがわかり、編集した。

 小西さんは『原論』で量子力学や集合論まで援用しながら自らの文学理論を展開し、旺盛な知識欲を感じさせる。作品の本文を『平 家物語』のように変化が著しい「流動志向本文」と、『源氏物語』のように原本に近づこうとする「定着志向本文」に分けるなど、独自の考え方も多い。

 久保木さんは「難解なことを明快に論じた小西先生の真骨頂といえる仕事です。今後の国文学研究のあり方を考える上で不可欠の著作になるでしょう」と話す。本体価格1万5千円。(編集委員・白石明彦)

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日本文藝史 別巻

著者:小西 甚一

出版社:笠間書院   価格:¥ 15,750

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