余録:新政権の"活力"
西アフリカにあったアイエオ王国の人民は、時の政治に倦(う)むとオウムの卵を贈り物にもたせた総代を王の元につかわした。総代が王に気苦労を 去って休養するよう勧めると、王は感謝して居宅に退いた。そして女たちに自分を絞殺するように命じたのである▲王位は王の子が継承したが、人民の勧告の大 半は実際には元老たちにそそのかされたものだった。18世紀後半には卵の受け取りを断固拒み、元老らを実力で一掃する王も現れる。しかし、後にこの慣行は 復活し、19世紀末まで存続したという▲人類学者のフレーザーが紹介している話である。王の衰えは部族全体の活力を失わせるというのが元老らの言い分らし い。幸いにも現代の民主社会では命のやりとりなしに権力者を交代させ、秩序全体の活力をよみがえらせることができる▲いよいよきょう特別国会が開会、鳩山 由紀夫民主党代表が第93代首相に指名され民主・社民・国民新党の連立政権が発足する。すでに明らかになった新閣僚の見なれぬ顔ぶれをながめれば、改めて 有権者が選んだもの−−「政権交代」による政治の活力再生への期待を実感できる▲一方、有権者にオウムの卵を突きつけられたように下野する自民、公明両党 も休養を命じられたわけではない。国民に倦まれた理由を十分総括し、政権奪回にむけ活力に満ちた野党として自ら再生することこそ国民多数の求めるところだ ▲歴史的総選挙から新政権発足まで、民主政治における権力の死と再生の祝祭はひとまず終わる。思い切り新たな活力を吸い込んだ新政権がきょうから問われる のは、あちら立てればこちらが立たない現実の問題の解決能力だ。
0 件のコメント:
コメントを投稿