2009年9月30日水曜日

asahi shohyo 書評

百年続く企業の条件 [編]帝国データバンク

[掲載]2009年9月27日

  • [評者]加藤出(エコノミスト)

■「非強欲主義」が長寿の秘訣

  日本は世界一の「老舗(しにせ)大国」だという。創業または設立から100年以上の企業は1万9518社、200年以上は938社、300年以上は435 社もある。経済が混迷しているだけに、長寿の企業に秘訣(ひけつ)はあるのか興味深い。本書は、経営者への取材に加え、帝国データバンクの強みである豊富 な財務情報を駆使して、「老舗企業」の経営を多面的に分析している。

 清酒、みそ、しょうゆなどの醸造業には老舗企業が特に多い。それらの収益性は高く、売上高経常利益率は全業種平均を大きく上 回っている。堅実性、安定性を表す指標も高いが、資本効率は悪いという。今回の金融危機発生以前の米国的な風潮であれば、そういった経営姿勢は消極的と見 なされていただろう。

 しかし、老舗企業のコメントの中には、「いつも苦しい時になぜか誰かが手を差しのべてくれました」「その時々に、助けてくれる人が出現する」というものがあった。自社の利益を過度に優先する「強欲主義」ではそうはいかなかったように思われる。

 「一〇〇年に一度の不況って言うけれどね。銀行や大会社がバタバタと倒産して、子供の身売りなどが出た昭和はじめの世界恐慌や、すべてを焼き尽くす戦争なんかに比べたら、今はずっとマシですよ」。幾多の激動を乗り越えてきた老舗企業の経営者の言葉には重みがある。

表紙画像

百年続く企業の条件 老舗は変化を恐れない (朝日新書)

著者:帝国データバンク 史料館・産業調査部 編

出版社:朝日新聞出版   価格:¥ 777

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