2009年9月22日火曜日

asahi shohyo 書評

日本食物史 [著]江原絢子、石川尚子、東四柳祥子

[掲載]2009年9月20日

  • [評者]平松洋子(エッセイスト)

■日本人は何を食べてきたのか

 フランスの美食家にしてモラリスト、ブリア・サヴァランが死の二カ月前に書き残した「美味礼賛」にこうある。「国民の盛衰はその食べ方いかんによる」

 はて、われらアジアの島国の来し方行く末とは——。

 三河の大名が江戸城に登るとき持参した弁当の中身は「焼玉子、しいたけ、ご飯」。昭和十七年、醤油(しょうゆ)の配給は、家族 二十人まで一カ月あたり一人三合七勺。戦後から昭和五十一年の米飯導入まで学校給食の「パン・牛乳・副食」はアメリカの余剰小麦が基本……古代から現代ま で、膨大な史料を駆使して日本の食文化が明らかにされる。

 はるかな過去が、リアルな音や匂(にお)いをともなって夥(おびただ)しい日本人の声や息遣いを伝えてくる。武士の子ども向け教科書に列記された食品から中世を身近に引き寄せることができるのも、味覚という装置を使ってこそ。

 日本人は何を食べてきたのか。日本人は何を食べていくのか。四万年前は採取狩猟から始まった。いま"国民運動"として盛り上げられる「食育」推進に落とし穴はないのか。過去の厚みが、わたしたちの現在を照らしだす。

表紙画像

日本食物史

著者:江原 絢子・石川 尚子・東四柳 祥子

出版社:吉川弘文館   価格:¥ 4,200

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