2009年9月21日月曜日

mainichi shasetsu 20090920

社説:亀井氏発言 銀行経営の国家統制か

 借金にあえぐ弱者を哀れみ、返済を猶予してあげることは、寛大で慈悲深い行為だ。もっとも、自分の金を貸した人が自分の意思で決めた場合、の話である。

 亀井静香金融・郵政担当相が中小企業向け融資や個人向け住宅ローンの返済を3年程度猶予する構想を打ち出した。亀井氏が自分で貸した金について 「返済は楽になってからでいいですよ」というのなら、美談にもなろう。だが民間金融機関に猶予させるという提案のようだ。猶予させる融資の元は我々の預金 である。

 亀井氏は臨時国会への「モラトリアム(借金返済猶予)法案」提出を目指している。詳細はまだ分からない。藤井裕久財務相が慎重な見方を示すなど政 府の見解が一致しているわけでもなさそうだ。しかし、金融担当相の発言は重い。「鳩山政権は企業経営に介入する」「国家統制色が強い」とのメッセージを発 し、国内外からの不信を招きかねない。

 貸し出しに関する決定は銀行業の中核である。融資を続けるか否か、金利を上げるのか、あるいは減免か、といった判断は、融資先の返済能力や将来性 など総合的に評価して行われる。この評価こそが業績を左右し、金融機関はそこで勝負しているといってよい。亀井氏は、民間金融機関に、そうした個別評価を 放棄し、国の方針に従って融資を続けろ、というのであろうか。

 国内の中小企業向け融資や住宅ローンの残高は300兆円近くある。金融機関の融資全体の約7割だ。特に地域経済に密着した地方の中小金融機関では その比率が高い。返済猶予により収益機会が失われるだけでなく、融資が焦げ付き、損失となる可能性もある。金融機関の業績が悪化し破綻(はたん)するよう なことになれば、影響は預金者や景気全般にも波及しよう。猶予の制度化が、新規融資の手控えにつながる恐れさえある。

 亀井氏が問題視するように、銀行の融資引き揚げの結果、黒字倒産する企業もあろう。金融機関に、企業や消費者の経済活動を支援する役割が期待され ているのも確かだ。しかし、金融支援をさらに拡充する必要があるのなら、政府系金融機関の活用や税などを通じ国の責任で行うのが筋だ。民間金融機関には国 内外に多数の株主がいるということを忘れているのだろうか。

 世界に目を転じれば、金融危機の再発防止を目指し、銀行の自己資本規制を強化する議論が主要国間で進んでいる。新しい規制の内容次第では、日本の 金融機関がより大きな影響を受け、さらに融資の抑制に走る事態もありうる。金融担当相としては、この問題にこそ緊急性をもって取り組むべきではなかろう か。

毎日新聞 2009年9月20日 0時10分




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