2009年9月28日月曜日

mainichi shasetsu 20090925

社説:視点 米朝対話=論説委員 中島哲夫

 ◇「甘い合意」繰り返すな

 北朝鮮の核問題に関する米朝対話が遠からず実現しそうな雲行きだ。6カ国協議への復帰を前提条件としていた米国がハードルを下げた。

 オバマ大統領は国連総会での演説で、北朝鮮とイランが核兵器を追い求めるなら「世界は団結して国際法が空虚な約束ではないことを示さねばならな い」と懲罰への構えを見せた。だが中国の胡錦濤国家主席との会談では米朝対話が6カ国協議の再開に「有益」だという認識で一致した。日韓露の各首脳ともこ うした見解を共にし、6カ国協議より米朝対話を先行させる準備が整ったと言えそうだ。

 一方、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記は核問題を「2国間および多国間の対話を通じて解決したい」と語ったという。中国から胡主席の特 使として訪朝した戴秉国氏(外交担当国務委員)への発言だ。米朝対話に続き6カ国協議への復帰を示唆したとも受け取れるが、韓国では「多国間とは米中朝3 国を意味する」との北朝鮮情報が流れている。これが事実なら日本や韓国の協議参加は容易に実現すまい。

 米国の方針変更はクリントン元大統領の8月の訪朝が契機になったように思える。米国では金総書記の健康悪化説を背景に北朝鮮の崩壊シナリオが論議 され、核兵器や核物質を米軍が捜索し確保する選択肢さえ論文に登場した。だが米メディアなどによると、元大統領と北朝鮮問題の専門家を含む随行者が会った 金総書記は、表情や手に何らかの後遺症がうかがえたものの予想外に元気で、政務には支障がないように見えたという。

 近い将来の体制動揺はない。制裁だけで核問題は解決できない。米政府はそう判断して直接対話へとカジを切ったのではないか。中国と連携し、場合に よってはアメを与えつつ妥協点を探るという進路も開ける。中国は北朝鮮の2回目の核実験を受けた国連の制裁決議に同調してきたが、金総書記を「2国間およ び多国間の対話」に協力させるため何らかの見返りを提供する可能性を排除できない。それは米国とて了解するだろう。

 米政府は北朝鮮との対話目的を6カ国協議の再開とし、米朝だけで核問題に関する実質的な議論はしないとの方針を明らかにしている。しかし北朝鮮の 交渉術は筋金入りだ。米中の利害が一致しているわけでもない。難しい状況だが、北朝鮮との甘い合意で失敗を繰り返してきた過去の経緯を教訓に、日韓の立場 も尊重しながら対処してほしい。いかなる場合にも核の完全廃棄という目標を堅持し、抜け道を封じる工夫が不可欠だ。

毎日新聞 2009年9月25日 0時01分(最終更新 9月25日 0時31分)



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