2009年9月22日火曜日

asahi shohyo 書評

エビデンス主義 [著]和田秀樹

[掲載]週刊朝日2009年9月25日号

  • [評者]谷本束

■ウソ常識の連打にグラリ

  酒もタバコも控えめに、バランスのいい食事と適度な運動。こういう健康的生活を続けたら長生きできる。医者もそう言う、テレビもそう言う。常識でしょ。と ころがフィンランド保健省が行った調査によると、医者の指導のもとで理想的な健康生活を送った人は、気ままに生活していた人よりも死亡率が高かったのだ。

 そんなのウソだあっと叫びたいが、この本には常識だと信じていることが実はウソだという例が次々に出てくる。医学には EBM(エビデンス・ベースド・メディスン)、「客観的証拠に基づいて進める医療」という考え方がある。これを日常問題にも使うべし、ウソに惑わされない ためには統計など客観的な数値でもって物事を見よというエビデンス・ベースド・シンキングの必要を説いている。

 「日本の子供の勉強時間は多すぎる」という話も、「地方医療の崩壊は新人医師がみんな大都市の病院を希望するせい」という話も統計の数字を見るとびっくり、事実ではない。「酒酔い運転が最も危険」という話もしかり、実際は飲んでない人の方が事故を起こす確率が高い。

 そんなのウソだあっの連打だが、本書の要はこの先。ゆとり教育や飲酒運転厳罰化など、大事なことがしばしばこういうウソ常識を もとに決められている。政治家もメディアも国民も「なんでも鵜呑み」の思考法を変えないと、国は壊れる一方だという深刻な問題があらわになるのだ。

 ずいぶん昔だが、日本にだけU型のトイレ便座があるのは日本人が世界で唯一、大小を同時に排泄する民族なので、汚れないように 前の部分を切ったからという話を聞いたことがある。この排泄特殊文化説は事実無根なのだが、信じましたなあ。簡単に。こんなヘンな話でも、それらしい理屈 があれば人は無造作に信じている。

 現実の世界ってのはかなりの部分、本当でないたくさんの事どもでできあがってるんじゃないか。足もとがグラリと傾くような、ちょっと落ち着かない気分になる。

表紙画像

エビデンス主義—統計数値から常識のウソを見抜く (角川SSC新書)

著者:和田 秀樹

出版社:角川SSコミュニケーションズ   価格:¥ 798

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