地域度外視、芸術性で判断 ノーベル文学賞選考の地から(上)
2009年9月19日
ノーベル文学賞の季節が近づいてきた。選考するスウェーデンアカデミーは今年から事務局長が代わり、新体制で選考に臨む。文学の評価はさまざまだが、ノーベル文学賞ではどういう点が重視されるのか。新事務局長とノーベル委員会の一人に聞いた。
昨年度まで務めたホーラス・エングダール氏に代わり、若手のペーテル・エングルンド氏(52)が事務局長のいすに座っていた。歴史研究家で、日本の歴史にも関心を持つ。
「スウェーデンアカデミーの創設は1786年で歴史があり、常に伝統を重んじてきた。アカデミーは時と共に変わってゆくが、同 時に継続性が重要です。事務局長はアカデミーの王様ではなく、メンバーを支えるサービスを提供する立場。私に代わったことで、劇的に方向が変わることはな い」と語る。
だが、94年の大江健三郎氏の受賞のあと、トルコを含むヨーロッパ圏在住の文学者ばかり受賞している点についてきくと、「それ が問題だということは謙虚に認識している」と話す。「私たちはヨーロッパ人の一人として、ヨーロッパの文学を理解しやすいということはある。だが選ぶ際に は地域を度外視して、あくまで文学的価値のみを評価しています。近年、ヨーロッパに集中している結果も偶然であり、長い目でみれば均等になってゆくのが望 ましい」
■鍵握る5人の委員
ノーベル文学賞の選考ではまず、世界中の文学・言語学の教授、作家協会、過去の受賞者などから推薦を募り、年頭に数百人のロン グリストを作成する。同アカデミーのメンバー18人のうち、ノーベル委員会を構成する5人が鍵を握る。5人はロングリストからショートリスト5人に最終候 補者を絞り込み、夏の間に作品を読んで意見書を提出する。9月中旬から18人のメンバーで議論を行い、最終的には投票で受賞者を決める。なお、初めて ショートリストに入った年には受賞の資格はなく、2度目以降でないと受賞できない。
5人のノーベル委員の一人が、07年から務めている女性のクリスティーナ・ルグンさん(60)。詩人、劇作家、評論家で、自ら 主宰する劇場を持つ。ノーベル文学賞の要件は「芸術性の高さ」と言う。「工芸的にパーフェクトな作家。それだけでは不十分で、他に特別な何かが必要です」
一方で「商業的に成功した作家を排するべきではない。そういうことは作品の評価と関係ない。受賞者のドリス・レッシングやクッ ツェーにはエンターテインメント性もある」と語る。「どういう文学が質が高いかを定義するのは難しいが、私にとっての基準は、言語的な明確さ、書かれる必 然性、美しさなどです」
日本の村上春樹氏については「受賞の可能性はお答えできない」としながら「彼の作品はエンターテインメント性もあるが芸術的な質も高い。私は彼の作品を何冊も読んでいます。『ノルウェイの森』などは好きです」という。
■エッセーにも注目
また、文学が多様化する中で、もっと注目されていいジャンルはエッセーだと語った。「今の私たちには考えが必要だから。現代人は静かに考える機会が減っている。エッセイストが受賞したら、おもしろいと思います」(ストックホルム=小山内伸)
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