社説:新政権に望む 脱官僚へ足場固めよ
これからがいよいよ政権交代の本番だ。民意の嵐が吹き荒れた投票日から一夜明けた31日、鳩山由紀夫民主党代表が9月中旬の首相指名、新政権発足 に向けて動き出した。まずは、社会民主党、国民新党と連立協議を行い政権の枠組みを決めた上で、国家戦略局など新組織を作り、内閣・党人事に着手したい考 えだ。
新政権移行期初日に確認しておきたいことは、あくまでもこの政権の基本的使命が何であるかだ。最大の眼目は、従来の官僚丸投げの政治から政権党が 責任を持つ政治主導に大きく切り替えることだ。何事も最初が肝心である。どういう政権の形を作るのか。いくつか注文をつけたい。
◇透明性高い連立に
第一に、連立協議である。民主党が衆院で308議席を獲得したのに連立を組まざるを得ないのは、参院(定数242)では統一会派を組む国民新党などを合わせても118議席で、過半数確保には社民党(5議席)の協力が欠かせないからである。
問題は、連立における政策合意の中身である。格差社会の是正、雇用と社会保障の再建、内需中心の経済へ転換するなど内政面については、多くの一致 点があるが、外交・安保面では溝が深い。特に、インド洋での海上自衛隊の給油活動や非核三原則の扱いをめぐってはすでに思惑の違いが表面化している。外 交・安保政策はあらかじめ政権の手をしばるべきではないが、最低限どこまで合意して何が合意できていないのか、は明らかにすべきである。
第二に、統治機構の改編問題である。縦割り省庁が行政を仕切る体制を改め、政治主導の実現をどう構築するかが問われる。民主党は国会議員100人 以上の政府への登用や、省庁トップによる事務次官会議の廃止を公約に掲げた。こうした方針が骨抜きとならない体制を組まなければ、「脱官僚」はかけ声倒れ に終わる。同党が掲げた行政のムダ削減による費用の捻出(ねんしゅつ)や「地域主権」の実現も、絵に描いた餅となろう。
まず、焦点となるのは首相直属で予算の骨格を作る新組織「国家戦略局」の構成だ。経済財政諮問会議に代わる司令塔と位置づけられるが、必ずしもそ の組織像は明らかでなかった。いくら首相の下に組織を作っても、各省から出向した官僚が事務局を取り仕切るのでは、これまでと実態は変わらない。国会議員 が議論をリードするためには人選、配置など細部に目配りした制度設計が必要となる。
行政の経費削減や組織見直しに取り組む「行政刷新会議」も、民間のシンクタンクなどが蓄積した政策評価のノウハウを柔軟に活用しなければ、実効はあがるまい。
むろん、公務員は政治的中立を求められており、いたずらに恣意(しい)的な人事を行い「忠誠」を求めることや、「官僚たたき」で敵対関係をあおる ことは許されない。だが、新政権が警戒すべきことは変化に伴う混乱以上に、官僚に巧妙に取り込まれることだ。各省からの出向組が占めていた事務首相秘書官 への民間人の起用なども大いに検討すべきだろう。
◇考え抜いた人材配置を
また、同党が掲げる「地域主権」を実現するうえで、分権改革を推進する体制も重要だ。やはり公約で示した国と地方の協議機関も、早急に検討を進める必要がある。
第三に、党と内閣の人事をどうするか。鳩山代表はこれらの人事については、首相指名の前後に一気に決めたいとしているが、名は体を表す。党と内閣 の骨格を誰が支えるのかは、新政権が何を目指すのか、どこまで実現能力があるのか、を示す極めて大切な指標となる。一内閣一閣僚という中長期をにらんだ人 事も必要かもしれない。菅直人代表代行、岡田克也幹事長ら党首脳クラス、前原誠司、野田佳彦、枝野幸男、玄葉光一郎、長妻昭、福山哲郎氏らエースをどう活 用するのか。民間からの登用を含め、考え抜いた布陣を期待したい。
小沢一郎代表代行については、来年の参院選をにらみ選挙担当を継続させるとの構想もあるようだ。100人の小沢チルドレンが派閥化し党内権力構造 が二元化するのではないかと心配する声もあるが、選挙制度改革や官邸機能強化により首相に権限が集中してからは、田中角栄元首相時代のヤミ将軍的な裏権力 は考えにくい。すべては首相となる鳩山氏の腹一つであろう。
第四に、政権移行期の危機管理体制の強化である。麻生政権から鳩山政権に移行するまでの2〜3週間は極めて重要な政権引き継ぎ期間になる。特に、 新型インフルエンザや災害発生などの危機管理は、内閣官房を中心とした時の政権の初動対応が重要だ。お見合いにならないよう、責任の所在が明確で、かつ透 明性の高い政権移行を求めたい。麻生政権の最後の仕事としてほしい。
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