2008年11月25日火曜日

asahi shohyo 書評

お前はただの現在にすぎない テレビになにが可能か [著]萩元晴彦、村木良彦、今野勉

[掲載]週刊朝日2008年11月28日号

  • [評者]温水ゆかり

■テレビ界に使徒はいるか?

 この本のきっかけとなったのは、68年の「TBS闘争」。40年を経ての名著復刊。

「TBS闘争」とは成田闘争をドキュメンタリー番組にする際、取材姿勢が偏向していると自民党から指摘を受けた事件である。時の首相は佐藤栄作。番組は放送されず、関係者には懲罰人事が下った。05年に発覚した慰安婦を巡るNHK番組改変問題を思い出す。

 ただし、「表現の自由」を掲げて権力と対峙する本ではない。テレビにはなにができるか、テレビの表現とはどうあるべきか。テレ ビの草創期を担った俊英達が自らに問い、読むものに問いかける。これを半年で書き上げたタフな知力、畏れ入る。共著者たちは出版後、TBSを退社して日本 初の番組制作会社テレビマンユニオンを設立した。

 題名が、トロツキーが未来と称する20世紀を嗤った言葉から来ているとは知らなかった。逆手に取って、テレビの本質は絵などで はなく「時間」にあるとする。この本には「解」がない。だから名著ではあるけれど、古典になることを拒んでいる。そこがいい。テレビマンの"聖書"だと思 うが、イエスには使徒がいた。今のテレビ界に使徒がいるかどうか……ビミョー。

表紙画像

お前はただの現在にすぎない テレビになにが可能か (朝日文庫 む 13-1)

著者:萩元 晴彦・村木 良彦・今野 勉

出版社:朝日新聞出版   価格:¥ 1,155

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