2008年11月15日土曜日

asahi shohyo 書評

「大佛次郎とフランス」展 19世紀末の仏に日本透視

2008年11月15日

●作家への道 足跡たどる

 横浜市の大佛次郎記念館で開かれている「大佛次郎とフランス」展は、仏文学への親しみを通して作家への道を歩んだ大佛の足跡を たどる。東京帝大の学生時代からロマン・ロランの「先駆者」などの翻訳を始め、後年の『ドレフュス事件』などノンフィクション4部作では、19世紀末フラ ンスに日本を透かし見た。

 今回、新しく見つかった未発表の短編小説「陶酔者」の原稿が展示されている。1920年、22歳の時の作で、主人公の中国人学 生「夏礼二」は、大佛が傾倒した象徴派詩人レニエにちなむ名前のようだ。「鞍馬天狗」は、ちょんまげ姿ながら、西欧近代的なヒューマニズムの体現者ともい われる。

 ノンフィクション4部作は19世紀末フランス第3共和政の重要な節目を描く。30年代に発表された『ドレフュス事件』『ブウラ ンジェ将軍の悲劇』は、軍の専横・クーデター未遂などの事件になぞらえて、時局に流される当時の日本の知識人・大衆に警鐘を鳴らした。パナマ運河をめぐる 贈収賄事件を描く『パナマ事件』、パリ・コミューンを追う『パリ燃ゆ』の戦後の2作も、昭電疑獄や60年安保闘争など、日本社会の大きなうねりに対応して いた。

 記念館研究員の松井道昭・横浜市立大教授は「30年代日本と19世紀末フランスが似ているという見立てはすごい。当時のジャーナリズム、大衆の双方への大佛の不信感もうかがえる。フランス的なものの見方を早いころから身につけた稀有(けう)な人」と語る。

 「大佛次郎とフランス」展は24日まで(045・622・5002)

表紙画像

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著者:大佛 次郎

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表紙画像

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