2008年11月25日火曜日

asahi shohyo 書評

現代アートバブル いま、何が起きているのか [著]吉井仁実

[掲載]週刊朝日2008年11月28日号

  • [評者]海野弘

■投機対象の現代アートもいずれはじける

 この本のタイトルは、区切り方で二つの意味にとれる。現代のアートバブルか、現代アートのバブルかである。私は前の意味で本を手に取った。とんでもない金融危機に直面している時だからだ。

 しかし、私の早とちりで、内容は、現代アートの状況について、フレッシュな体験をいきいきと語ってくれるものであった。予想はうれしい方にはずれてくれたのである。

 著者は、銀座の吉井画廊の父のもとで近代美術を学び、やがて現代美術に関心を持ち、そのプランナー、プロデューサーとして活動している方らしい。

 1990年代ぐらいから現代美術も価値が上がり、世界的に〈現代アートバブル〉といわれるブームとなりはじめた。そこに参加した著者の具体的な体験が面白い。

 だが、日本ではまだ現代美術の理解がおくれ、美術ジャーナリズム、美術批評が停滞している。そのような状況を変えるため、現代 美術をできるだけ一般の人に親しませるためにこの本は書かれている。その姿勢に私は好感を抱いた。画商には画家を育てることと、作品を売ることという二つ の仕事がある。その二つの面がここでもよくあらわれているようだ。

 現代美術を理解するためには、現代を理解し、感じなければならない。現代美術に親しむには、現代に対する豊かな関係を持たなければならないのだ。いつまでも印象派にとどまろうとする日本の美術ファンを現代へと導こうとする意図が伝わってくる。

 ここではまだ、この本が出たばかりの時に発生した金融危機については、当然ではあるが、触れられていない。しかし、現代アート バブルもやはりバブルではあるから、あやうさを秘めていることは、予感されている。投機の対象としてつり上げられた現代アートのバブルもいずれはじける。

 だが、〈現代アート〉はその時にこそ、現代の鋭い表現者となるだろう。「良いアーティストが育つためには、多少風通しの悪い環境のほうがいいように思います」と本書にある。

表紙画像

現代アートバブル (光文社新書 369)

著者:吉井仁実

出版社:光文社   価格:¥ 777

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