2008年11月6日木曜日

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米国民、現状拒否を選択

2008年11月6日2時1分

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 今回の米大統領選で米国民が示した選択の本質は、「オバマ氏の勝利」というより「現状の拒否」であることが明らかだ。

 イラク戦争の長期化に加えて最近の金融危機。世論調査では「米国は間違った方向に進んでいる」と答える人が約8割を占め、選挙が本格的に始まった今年初 めより増えている。ブッシュ大統領の支持率も30%を切った。軍人と医師をのぞき、あらゆる分野の指導者に対して不信感が募っているという「リーダーシッ プ危機論」すら聞かれる。

 2年間にわたった選挙戦は当初、テロとの戦いに勝てるのかという「安全保障」が主要テーマだったが、終盤は金融危機を受けて「富の再配分」の是非 に焦点が移った。いずれも国家の最も基本的な役割であり、それが真正面から問われたことに米国の国家基盤の弱体化がうかがえる。

 今、オバマ陣営関係者の間で盛んに読まれている本がある。大恐慌直後の1932年に当選した、フランクリン・ルーズベルト大統領の就任後100日 間を描いた「THE DEFINING MOMENT(決定的瞬間)」だ。未曽有の危機から国家をどう救うのか、先達の経験から何とかヒントを見いだした いという必死の思いが見て取れる。

 悲観的空気のなかで一筋の光明が見えるとすれば、「初のアフリカ系大統領」の誕生だろう。5日未明、ホワイトハウス前で気勢を上げていたアフリカ 系の若者は「オバマは大統領として失敗したって構わない。我々は今日、歴史を作ったのだ」と興奮していた。しかし、これで米国が黒人差別を克服したのかと 問えば、人種を問わず返ってくる答えの多くは「ノー」だ。

 オバマ氏は奴隷の子孫ではなく「怒れる黒人」の代表でもない。選挙戦を通じて見えたのは、むしろ人種を超越しようという姿勢だ。ジャクソン師ら公民権運動家が冷ややかな視線を送る一幕もあった。

直近の民主党大統領だったクリントン氏は、96年の一般教書演説で「大きな政府の時代は終わった」と宣言した。しかし、金融危機に対応するため、政 府の役割拡大は避けられない。最近の7千億ドルに上る金融救済策が如実に示している。「過去30年続いた、より小さな政府を目指す流れは完全に変わっ た」(ハムレ戦略国際問題研究所所長)との指摘も聞かれる。ただ、どこに向かうかは誰にも分からないようだ。時代の転換点でかじ取りすることの難しさが、 浮き彫りになっている。

 「オバマ氏なら現状を変えてくれるだろう」という期待が、米国内外で高まっている。ブッシュ政権の単独行動主義が是正されることを願う日本も例外 ではない。しかし何をどこまで実施するのか、できるのか——それはまだ未知数だ。来年1月に発足するオバマ政権にとっては、各方面との「期待感の調整」 が、当面の大きな仕事となる。(アメリカ総局長・加藤洋一)



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