2008年11月25日火曜日

asahi shohyo 書評

もう、服従しない—イスラムに背いて、私は人生を自分の手に取り戻した [著]アヤーン・ヒルシ・アリ

[掲載]2008年11月23日

  • [評者]松本仁一(ジャーナリスト)

■イスラム批判がもたらす脅迫の日々

 「イスラムは間違った宗教だ。預言者ムハンマドは変質者だ」とイスラム教徒が口にしたらどうなるか。間違いなく命をねらわれることになるだろう。そう公言した女性の物語である。

 著者のアヤーンはソマリアで育った。性器切除をされ、神と男性への服従を強制され、それに疑問を持つことも許されない。22歳のとき、親の決めた結婚を拒否してオランダに逃れ、国籍を取得した。そして考える。

 オランダは野蛮な異教徒の国といわれた。なのに豊かで、人々は親切だ。異教徒の国の方がイスラム教国より寛容で暮らしやすいのはなぜだろう。イスラムが間違っているのではないか……。

 その率直なイスラム批判が政党の目にとまる。選挙にかつぎ出され、オランダの国会議員になってしまう。そして脅迫が相次ぐようになる。

 そんなある日、彼女の映画化を企画したオランダ人の監督が路上で殺される。脅迫は現実となった。警護官に守られて転々とする生活が始まる。議員辞職に追い込まれ、いまも居場所は極秘だ。

 この本は、イスラムと先進国社会の関係について、多くの根源的な問題提起をしている。たとえば、他の価値観を認めない人々と、宗教の自由とをどうすりあわせるかという問題だ。

 オランダは、難民が持ち込むイスラム社会の慣習もそっくり容認した。そのため移民はオランダ社会に統合されず、「別に暮らし、別に勉強して、別に社会生活を営むように」なっていく。

 彼らはオランダでも女子に性器切除をし、女性をたたき、服従を強制する。その結果、国内で起きている女性や子どもの苦しみを、オランダは無視することになった。やがて国内で宗教テロが行われるようになる。それでいいのか、と彼女は問いかける。

 彼女の意見は尖鋭(せんえい)なイスラム否定で、そのまま受け入れにくい部分も多い。しかし彼女が提起した問題は、グローバル化の中で世界のどこにでも現れてくる現象だ。オランダ社会が受けた衝撃は他人事(ひとごと)ではない。

    ◇

 INFIDEL、矢羽野薫訳/Ayaan Hirsi Ali 69年、ソマリア生まれ。現在は米国在住。

表紙画像

もう、服従しない イスラムに背いて、私は人生を自分の手に取り戻した

著者:アヤーン・ヒルシ・アリ

出版社:エクスナレッジ   価格:¥ 1,890

0 件のコメント: