2008年11月12日水曜日

asahi shohyo 書評

フィンランドを世界一に導いた100の社会改革 [編著]イルッカ・タイパレ

[掲載]2008年11月9日

  • [評者]広井良典(千葉大学教授・公共政策)

■日本にも必要な「イノベーション」

  「9・11」のあった2001年の冬にヘルシンキに2カ月ほど滞在したが、アメリカとは対照的な、ゆったりとした豊かさを日常のあらゆる面で感じた。フィ ンランドはここ数年"世界一の教育水準"や国際競争力の高さで大きな注目を集めている。本書は、それを近年日本でも言及される「ソーシャル・イノベーショ ン」という観点から幅広く紹介し論じるものである。

 「イノベーション」というと、通常は科学技術や研究開発を連想するが、ここで主題となっているのはもっと広い意味でのイノベー ション(革新)だ。それは社会の仕組みや人々の意識などに関するものであり、編著者の「すべての市民に対する社会保障、無料の学校教育等によってもたらさ れる市民のしあわせと社会の安定」が「特許のないイノベーション」であるという言葉に象徴される。「福祉社会と競争力」は互いにパートナーともいう。

 日本とフィンランドは"後発の産業国家"、社会変動の速さといった点で意外に似た面もある。現在の日本に必要なのは、狭義の技 術革新もさることながら、成熟社会という時代状況に応じた制度や意識の「イノベーション」ではないか。若干"事典"的で各項目の記述が物足りない面もある が、そうした様々な思考を喚起してくれる本である。

    ◇

 山田眞知子訳

0 件のコメント: